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イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作する企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。5冊目は、伊藤ちひろ『ひとりぼっちじゃない』です。2023年に原作者自身が監督を務める映画版が公開し話題となりました。

久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。

小さい頃から人とのコミニュケーションがうまく取れない男性が主人公の恋愛小説です。悩みながらも前向きにいようとするけれど、どうしても思うような自分になれない中、一人の女性と出会い、少しずつ変わっていくストーリーなのですが……、恋をして徐々にすてきな男性になっていく、という単純なものではないところがこの小説の面白いところ。

初めから終わりまで日記形式で書かれていて、人の日記を盗み見るような新鮮さもある小説です。

『ひとりぼっちじゃない』
著/伊藤ちひろ
KADOKAWA (角川文庫)

この小説は日記形式で書かれているので、ススメ先生の感情の移り変わりスピードが1日単位で分かります。悩んでいたと思ったら、次の日にはケロッと心が良い方に転がっていたり、逆に1週間経っても同じ悩みをぐるぐると巡っていたり。そんな日ごとの気持ちの変化がこの小説の醍醐味です。

このゴミ置き場の近くには、私のお気に入りの町中華があります。酢豚のにんじんがハートの形になっているのですが、どう見てもくり抜いているのでなく包丁でハートを切っていて、型抜きされたハートよりも愛を感じます。

主人公のススメ先生は、勤めている歯科クリニックに自分のことを好きだと思ってくれている人がいるのに、その気持ちに全く気づきません。人の気持ちを必要以上に考えるのに、どうしてこんなにも人の気持ちに鈍感なのだろうと思いますが、ススメ先生は、目の前の人を考えずに目の前の人を通して自分のことを考えています。その人の立場に立って、自分のことばかり見つめていて……、これぞ自意識過剰。苦しそうです。


小説の中盤、スーパーでの出会いをきっかけに、ススメ先生と宮子さんとの関係はだんだんと近くなっていきます。宮子さんが勤めるアロマ店で素敵なひと時を過ごしたり、宮子さんの家でご飯を食べたり。そんな幸せな人間関係の日記のBGMは、きれいなピアノの曲がぴったりです。

ゴミの全景を描き終えました。ここからは質感を整えて行きます。

しかし、なかなか掴めない宮子さんの気持ちに翻弄されて、ススメ先生の日記は曇っていきます。ピアノの弦が、プツリプツリと一本ずつ切れて曲が崩壊していくような感じで、ススメ先生の片思いは進んで行きます。

私は、幼稚園に入る前から高校までピアノを習っていました。ピアノの弦が切れることがたまーにあり、切れた弦で鳴る音は、響かずにこもったような滑稽な音が出ます。切れた弦の音を面白いなぁと思って鳴らしていたことを思い出します。

こうやって今、その音を人間関係に例えていることもなんだか面白いです。

WEB連載「久保沙絵子の勝手に表紙作ります。」は、毎週水曜更新!次回は、5/18(水)公開予定です!
著者

久保沙絵子

大阪在住、雑誌やウエブなどで活躍中のイラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチの作風が特徴。線の質感にこだわり、作品はすべて一発書き! 制作は、生命保険の粗品のスヌーピーのコップで白湯を飲みながら。また、街中でスケッチすることも。もし、見かけたらぜひ声をかけてください。

  • @saeco2525

※過去記事は、ハッシュタグ #久保沙絵子の勝手に表紙作ります をクリック

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SAVVY8月号「お茶って、楽しい! 」
発売日:2025年6月23日(月)定 価:900円(税込)