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イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作する企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。4冊目は、高野和明の代表作『幽霊人命救助隊』です。

久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。

この小説は、自殺をして天国にも地獄にも行けない4人の男女が神様からの命令で自殺志願者の自殺を食い止める、という話。自殺って悲しく寂しい現象です。だけどこの小説は、温かいです。もう死んでしまった人、死にたい人、いつか死にたくなる人を救うように書かれていて、「人にも自分にもやさしくしないといけないな。」と、振り返ることができる1冊だと思っています。

『幽霊人命救助隊』
著/高野 和明
文藝春秋 (文春文庫)

小説に出てくる自殺志願者は、自分と人をよく比べます。

そうして、辛い自分の気持ちをますます辛いものにしていきます。辛い時の心は、考え方を良くない方へと引っ張っていきやすいです。私も体感したことがあります。

私がどん底の時の周りの人の幸せは苦しくて、誰かがどん底の時の私の幸せは、その人を苦しくさせます。森見登美彦さんの小説に「みんなが不幸になれば、僕は相対的にしあわせになれる。」という一文がありました。

幸せは相対的に計るものではないことは分かっていますが、光が強いほど影が濃くなるように、周りの幸不幸が自分の状況の感じ方に影響を与えることはあるのかもしれません。だから、幸せを分け合うとはとても難しいことです。

「あなたの幸せがわたしの幸せ」なんて、そんな美しいことばかりではないことを、自分の心を見つめて知る虚しさの先に、人の思い方を学びます。

手の下書きをしました。仏像の与願印(願いを叶える手の形)のイメージです。筆に金色の書道液を付けてなぞります。


タンポポを咲かせました。

救助隊たちは、任務の途中の折々で自分の過去を顧みます。最初は、自分の過去を思い出す事を避けていましたが、徐々に視線を自分の過去へと向けていき、そして、自殺して終わらせた人生とはいえ自分の人生が不幸ばかりではなかったと気づいていきます。

そんな話の流れから、絵の中にタンポポを書きました。タンポポは、過去の”幸せなこと”です。良いことも悪いことも消えなくて、ただただ地層みたいに重なっていくようなイメージです。

ひとときのものではない、思い出すたび悲しいこともありますが、思い出すたび温かい気持ちになることもあります。後から後からたくさん重なっていくのに、まだまだ味わい深い事柄は、まだまだその事を思う余地があるから残り続けているのだと思います。誰かが私に、心で密かに味わい続けている事の話を聞かせてくれた時、あぁこの人と知り合えた。と感じます。
だから、抱えた事柄とその思いは、その人自身を表しているような部分もあるのだと思います。


この小説は、とてもすてきな終わり方をします。

人命救助の任務が終わりに近づくにつれて、救助隊たちの気持ちが揺れては収まりを繰り返し、心いっぱいに進んでいきます。

生きること、辛かったこと、自殺すること、後悔すること、いろんな段階のいろんな気持ちをお借りして、私は、どんな状況でも、しなやかに生きていけたらいいな。と、思いました。

そして完成!

読み直して、2回目であってもはらはらと泣けてしまったこの小説、みなさまもぜひ、ページを開いてみてくださいね。

WEB連載「久保沙絵子の勝手に表紙作ります。」は、毎週水曜更新!次回は、新しい作品がスタート。6/4(水)公開予定です!
著者

久保沙絵子

大阪在住、雑誌やウエブなどで活躍中のイラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチの作風が特徴。線の質感にこだわり、作品はすべて一発書き! 制作は、生命保険の粗品のスヌーピーのコップで白湯を飲みながら。また、街中でスケッチすることも。もし、見かけたらぜひ声をかけてください。

  • Instagram
    @saeco2525

※過去記事は、ハッシュタグ #久保沙絵子の勝手に表紙作ります をクリック

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