全員が出合うべきときに
出合った舞台だと思います(松)
すげえいろいろもらった!
という気持ちで帰れるはずです!(東)
アメリカ仕込みの華やかな歌とダンスが持ち味の松下優也と、恵まれた体格を生かした伸びやかな声と演技で注目される東 啓介。人気ミュージカル『キンキーブーツ』で、それぞれドラァグクイーンのローラ役、靴工場若社長のチャーリー役で初共演を果たす。熱心なファンが多い傑作に、手を携えながら挑戦する二人に話を聞いた。
ショーアップされた部分と
苦悩の部分の緩急がすてき(東)
編集部(以下・編) 『キンキーブーツ』は、ドラァグクイーン用の靴を作ることで会社を再生するというポジティブな物語に、LGBTや親子の問題も絡んでくるという、奥深さもあるミュージカルです。お二人にとって、この作品の魅力はどこにありますか?
松下(以下・松) まず、楽曲がめちゃくちゃ良いです。シンディ・ローパーの作った曲を、ミュージカルで歌えること自体が、すごくぜいたくだと思います。
東(以下・東) 初めてこの舞台を観た時「あ、この曲いいな」「この曲もいいなあ」って、最初から最後まで思いました(笑)。
松 あとは「なりたい自分になる」「あるがままの他人を受け入れる」というテーマが、皆さんに愛してもらえてる部分じゃないですかね?
東 そうですね。ショーアップされた楽しい部分と、人物たちの苦悩を見せる繊細な部分の緩急が、すごくすてきです。「なりたい自分になりたいけど、できない」みたいな所に寄り添ってくれたり、勇気をもらえたりする。自分が一歩踏み出せるようになるための一つの材料が、この作品にはあるのかもしれないです。
編 お二人はこれが初共演ですが、お互いに「すごいなあ」と感じているところはありますか?
東 舞台上での見せ方、場の掌握の仕方がすごくうらやましいです。特に今は、いろんなタイプのミュージカルが出てきていて、そのなかで優也くんの歌声にハマるものが増えてるんじゃないかと思います。
松 やっぱり恵まれたタッパと、このタッパだからこそ出る深い歌声は、彼にしか出せない魅力ですね。40代、50代になった時に、そこがどう変化していくのか楽しみなんです。今もすてきな役者だけど、多分これからさらに良くなっていくタイプだと思う。
編 その変化を感じるために、今のうちにその姿を目にとどめておいた方が良いですよ、と。
松 でもこの座組自体、みんなが『キンキーブーツ』に出合うべくして出合うタイミングで、一緒になったと思うんです。自分も、今の年齢とキャリアだからこそ、ローラができるという気がしていますし。作品自体は4度目の上演ですが、今回は新しいキャストが多いからこそ、新しい世代のパッションが感じられる舞台になるんじゃないかな?と思っています。
自分が昔書いたリリックが
作品のテーマと一緒だった(松下)
編 「自分が変われば、世界が変わる」という作品のテーマに引っ掛けて、何か「自分が変わった瞬間」みたいな経験ってありますか?
東 えー……一足飛びに変わったという経験はないですね。僕は社会派的な題材のミュージカルに出る機会が多くて、そのたびにいろんなことが自分の中に落とし込まれているから、ちょっとずつ変わっているかもしれないけど。
松 ファーストアルバムに『I AM ME』なんてタイトルを付けちゃうぐらい(笑)、昔から「俺は俺だ」という考え方でした。でも27ぐらいの時かな?「相手を受け入れることで、自分が自分でいられる」という風なリリック(歌詞)を書いたんです。違う価値観の人を認識して受け入れたら、自然と自分の居場所を見つけられるんじゃないか? と。自分の心境が変化したのは、その時でした。これって『キンキーブーツ』の「あるがままの他人を受け入れる」というメッセージと、不思議とつながる部分がありますね。
編 面白い偶然ですよね。松下さんは西宮出身で、大阪・京橋のダンススクールに通っていたと聞きましたが。
松 中学の頃は365日、ほぼ行かない日はなかったです。今は大阪で時間があったら、心斎橋に好きな古着屋が何軒かあるので、そこを回ったりします。
編 東さんは本誌にも興味を示してくださっていましたが、公演中は割と出歩く方ですか?
東 「せっかく来たんだから」と、ご当地の物を食べたり、神社に行ったりしますね。東京にいる時は、なかなか「どこかに行こう」とは思わないんですけど。
編 松下さんは大阪公演中に、東さんをどこかに案内しようとか思っていますか?
松 多分しないです(笑)。
東 いや、古着屋行きたいっすよ!
松 ブーツ履き疲れて、歩きたくなくなるんじゃないかなあ。でも今回はWキャストだし、もし余裕ができたら……。
編 心斎橋に連れて行ってもらえることを祈ってます。では本誌の読者に、公演のお誘いの言葉をお願いします。
東 音楽の楽しい部分とか、ローラのきらびやかさとかの非現実的なことに触れつつも、ストーリーの中には、いろんな大事なメッセージがある作品。「すげえいろいろもらっちゃった!」みたいな気分になれると思います。
松 『キンキーブーツ』もミュージカルも観たことがないという方がいたら、今この記事が出合いやと思います(笑)。ミュージカルの入り口になる作品って、それほど多くないと思うんですけど、これはそんな作品の一つ。僕らもいろんな出合いを重ねて『キンキーブーツ』に集まるわけだから、もうこの文字を見ちゃったら……。
東 来るしかないですね!
Profile松下優也
YUYA MATSUSHITA
1990年生まれ、兵庫県西宮市出身。中学3年で音楽の勉強のために渡米。2008年にソロデビューを果たし、2015~2020年はボーカル&ダンスグループ「X4」で活躍。2016年にNHKの朝ドラ『べっぴんさん』に出演し、俳優としても注目を集めた。主なミュージカル出演作品に『黒執事』シリーズ、『ジョジョの奇妙な冒険』など。
東 啓介
KEISUKE HIGASHI
1995年生まれ、東京都出身。2013年に『ミュージカル・テニスの王子様』(2ndシーズン)で俳優デビュー。舞台映えする体格と歌唱力、硬軟自在な演技力で、主演から脇役まで、またミュージカルからストレートプレイまで数多くの舞台をこなす期待の俳優の一人。主な出演作品に『刀剣乱舞』『ジャージー・ボーイズ』など。
STAGE INFORMATION
ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』
5月26日(月)〜6月8日(日)
実話を元にした同名映画を、シンディ・ローパーの作詞作曲でミュージカル化した舞台。父親の急死で倒産寸前の靴工場を引き継いだチャーリーが、ドラァグクイーンのローラとともに、女装する男性用のブーツ作りに奮闘する姿を描く。日本では過去3回上演され、今回は主な役をWキャストにして再演。
会場/オリックス劇場
脚本/ハーヴェイ・ファイアスタイン
音楽・作詞/シンディ・ローパー
演出・振付/ジェリー・ミッチェル
日本版演出協力・上演台本/岸谷五朗
訳詞/森 雪之丞
出演/東 啓介・有澤樟太郎、甲斐翔真・松下優也(共にWキャスト) ほか
料金/S席15,000円 ほか(土・日・祝&平日昼は価格変更あり、全席指定)
問い合わせ/0570-200-888(キョードーインフォメーション)
公式HP/[ブロードウェイミュージカル「キンキーブーツ」公式サイト]
写真/中島真美 取材・文/吉永美和子
※この記事は2025年6月号からの転載です。記事に掲載されている情報は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。