kubosakiko_EC_4_2-100

イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作する企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。4冊目は、高野和明の代表作『幽霊人命救助隊』です。

久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。

この小説は、自殺をして天国にも地獄にも行けない4人の男女が神様からの命令で自殺志願者の自殺を食い止める、という話。自殺って悲しく寂しい現象です。だけどこの小説は、温かいです。もう死んでしまった人、死にたい人、いつか死にたくなる人を救うように書かれていて、「人にも自分にもやさしくしないといけないな。」と、振り返ることができる1冊だと思っています。

『幽霊人命救助隊』
著/高野 和明
文藝春秋 (文春文庫)

幽霊人命救助隊たちは暗視ゴーグルのようなもので自殺願望の程度を把握します。

そうして見つけた1人の男性は、勤続35年のサラリーマン。この男性は、うつ病で、職場に行くのにものすごい精神力を要します。なんとか職場に着いてもトイレにこもり、声を殺してシクシク泣きます。

驚きなのは、この男性の状況は決して悪いとは言えないところ。うつ病を患った心のフィルターを通すと、自分の周りで起こるあらゆるものを、良くない方へ変換して感じるようになるのだと、心の病気の怖さを感じます。

黒い雲から雨が降り出しました。

電車を描きます。
電車が遅延して、参ったな〜。と思った経験は、誰にでもあるはず。
「勘弁してよ。」と、言いたくもなりますが、その背景をふと考えてしまいます。


描いていると、絵の中の男性に対して申し訳ない気持ちになります。この人は絵の中だから、ずっと苦しいままなのか。と、しんみりとした気持ちです。

この小説の自殺志願者は、とても困難な人生の部分を歩いています。絵でも歌でも、人生は”道”によく例えられます。真っ暗な道で転ばないようにする方法は、その道の歩き方をよく知ることか、その道を何かで照らすこと、またはもう一歩も踏み出さないことだと思います。

歩き方を知ることは、生きていくことそのもので、経験です。その道を何かで照らすことは、自分の中に光を見出すことです。もう一歩も踏み出さないことは、生きるのをやめることです。

こんなふうに書き出してみると、生きるってなんて大変なんだ。と思ってしまいそうになりますが、そんなときは元永定正さんという画家の「一寸先は光」と描かれた作品を思い出します。私はこの言葉と、書かれた文字の気楽で優しい書体がとてもいいなと思い、ペンケースの蓋の裏に貼っています。

一寸先は光だと信じる事ができれば、どんな時も爽やかに居ることができそうです。

パッとしない気分の日は、この言葉を心に添えて、やっていこうと思います。

WEB連載「久保沙絵子の勝手に表紙作ります。」は、毎週水曜更新!次回は、5/21(水)公開予定です。
著者

久保沙絵子

大阪在住、雑誌やウエブなどで活躍中のイラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチの作風が特徴。線の質感にこだわり、作品はすべて一発書き! 制作は、生命保険の粗品のスヌーピーのコップで白湯を飲みながら。また、街中でスケッチすることも。もし、見かけたらぜひ声をかけてください。

  • Instagram
    @saeco2525

※過去記事は、ハッシュタグ #久保沙絵子の勝手に表紙作ります   をクリック

Share
  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
SAVVY6月号「みんなのランチ手帖 2025」
発売日:2025年4月23日(水)定 価:900円(税込)