イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作する企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。4冊目は、高野和明の代表作『幽霊人命救助隊』です。

久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。
この小説は、自殺をして天国にも地獄にも行けない4人の男女が神様からの命令で自殺志願者の自殺を食い止める、という話。自殺って悲しく寂しい現象です。だけどこの小説は、温かいです。もう死んでしまった人、死にたい人、いつか死にたくなる人を救うように書かれていて、「人にも自分にもやさしくしないといけないな。」と、振り返ることができる1冊だと思っています。
著/高野 和明
文藝春秋 (文春文庫)
この本に向けてどんな絵を描くか、考えながら歩けども歩けども決まらず、日が暮れて、
体重は2キロ落ち(これは嘘です) 、やっと辿り着いたのは、ひとりぼっちの絵です。
神様は、主人公らに自殺者の救助を命令する時、「これは倫理や道徳の問題ではない」と言います。
この言葉は、”命は大切だから、周りの人を悲しませるから自殺をしてはいけない。”という正しくありふれた考え方で、苦しい渦中の自殺志願者を助けられるような、容易い問題ではないという事を言っているのだと思います。
消えてしまいたい、死んでしまいたいと思ったことがない人は存在するのでしょうか。
気になってはいたものの、聞ける機会もなくほったらかしにしていた疑問だったのですが、今回「この文章を書くにあたって知りたいんです。」という免罪符?言い訳?を得まして、周りの人に聞いてみました。
聞いているうちに『でんでんむしのかなしみ』という絵本を思い出しました。
あるでんでんむしが、自分の背中の殼の中に悲しみがたくさん詰まっていることに気づき、これは大変!と、他のでんでんむしはどうなのか、聞いて回る話です。
でんでんむしの話と同様、私が聞いた人は全員消えたい気持ちを持った経験がありました。「詩や童話はやっぱりすごいな」と思いつつ、そうだろうと思ったことがやっぱりそうだったことに寂しい気持ちになりました。
この小説に登場する幽霊人命救助隊たちの辛いところは、自分たちの自殺という過去に、今まだ命を持って生きている人を通して向き合わないといけないところです。自殺をした人が、もしかしたら自分は生きていける方法があったのではないか。という発想に行き着かなくてはいけないなんて、すごく酷なことです。
だからわたしは自殺に関しては、過去に限って全てを肯定したい気持ちでいます。
自殺をもうしてしまった人に限り、あなたは絶対楽になった。「正しかった。」と、思いたいし伝えたいです。

久保沙絵子
大阪在住、雑誌やウエブなどで活躍中のイラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチの作風が特徴。線の質感にこだわり、作品はすべて一発書き! 制作は、生命保険の粗品のスヌーピーのコップで白湯を飲みながら。また、街中でスケッチすることも。もし、見かけたらぜひ声をかけてください。
- Instagram@saeco2525
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