イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作する企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。3冊目は、アニメ化でも話題となった森見登美彦の代表作『四畳半神話体系』です。

久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。
連載3作目の『四畳半神話体系』。この小説は、勉学に励まず、不満と後悔を力に変えて大暴れする京都の大学生の話です。キラキラとしたキャンパスライフとは程遠いのに、なぜだか無性に主人公の大学生生活がうらやましくなる1冊です。
著/森見登美彦
KADOKAWA (角川文庫)
森見登美彦さんの文章は、ユーモラスで楽しいです。
例えば、主人公が住んでいる下宿の描写。
「今にも倒壊しそうな木造三階建て、見る人をやきもきさせるおんぼろぶりはもはや重要文化財の境地へ到達していると言っても過言ではない…」
と、あります。
ユーモアは、有情滑稽とも訳されるそう。
“ぼろぼろの木造三階建て”だけで伝わるところを、たとえ遠回りになっても叙情的かつおかしく伝える。
森見さんのそんな策略に随所で引っかかり、ニヤニヤ読んでしまいます。
『四畳半神話大系』というタイトルのように、部屋の中での主人公の過ごし方、考えごとが小説の中にたくさん出てきます。これは、人のプライベートな過ごし方や考えごとをのぞく面白さもありつつ、読みながら、部屋というのは自分の心をゆっくり見直すことができる場所だと実感します。
部屋の外でいろんなことが起き、それを部屋に持ち帰って、怒ったり悲しんだり喜んだりした気持ちを再確認する場所。“自分の部屋”とは、そういう場所にすると決めているわけではなくて、自然とそうなる不思議な場所なのだと思います。
この主人公は、いつも何かを考えることが癖付いているような人だと感じます。私も(意味のあることかどうかは置いておくとして……)、ぼんやりと考え事をしていることが多いです。
“さとり”というとちょっと堅いですが、日々、考えたバラバラのパーツが組み合わさって、“さとり”のような真理にたどり着くことはわりとたくさんあるように思います。
ぼーっと考え事をしている自分の顔がふと写ったときに、素人が作った埴輪みたいな顔だ……。と思ったことがあります。攻撃力のなさそうないい顔です。

久保沙絵子
大阪在住、雑誌やウエブなどで活躍中のイラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチの作風が特徴。線の質感にこだわり、作品はすべて一発書き! 制作は、生命保険の粗品のスヌーピーのコップで白湯を飲みながら。また、街中でスケッチすることも。もし、見かけたらぜひ声をかけてください。
- Instagram@saeco2525
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