イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作する企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。2冊目は、第13回(平成4年)吉川英治文学新人賞を受賞した中島らもの代表作『今夜、すべてのバーで』です。

久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。
連載2作目は、何かに取りつかれてしまったとき、苦しくてもぼんやりとやり過ごす主人公のあり方がとてもリアルな、『今夜、すべてのバーで』(著/中島らも)への作品。ずっと手元に置いておこうと思っている一冊です。
著/中島らも
講談社 (講談社文庫)
『今夜、すべてのバーで』には、フレーズとして心に残しておきたいと思うような、生きることに関する言葉がいくつか出てきます。
アルコール依存症の主人公の側にいる、さやかという女性が、「生きる意思を杖にして歩いている人たちの流れの中にいて、そんな人たちのためだけに泣いたり笑ったりしたいの。」と、主人公に話す場面があり、この文章に、わぁ。と思いました。完璧に正の方向にだけ向いたこの考え方はとても無理をしているような感じがします。どうしてさやかがこんな無理をせざるを得ないのかは、読んで感じていただくことにして……。
私は人生に対して、人は基本、明るい道と暗い道の間を歩いていて、時にどちらかに寄って、またある時は完全にどちらか側を歩いていくのだというイメージを持っています。
例えば、今、私、明るい道と暗い道の、どちらでもない間を歩いています。スキップするほど幸せではない。けれど、消えたいほどに辛くもない。そんな感じで。
そういう考えを持ちつつ、”生きる意思を杖にする”タイミングは、明るい道と暗い道のどちらを歩いている時だろうと考えました。
治らない可能性の高い病気と闘っているとか、戦場の最前線に立たされているようなことは、生きる意思を杖にする感じがします。その切迫さの濃度を薄めていくと、日常の私たちの小さな闘い(通勤電車が辛い。人間関係に気疲れしてしまう。ステルス値上げでちくわが細く短くなって悲しい。)とかを乗り越えるために無意識に突いている杖になるのだと思います。
そんな、少し暗い道を歩いている最中でも、”生きる意思を杖にしている。”ということが言葉として頭にあることで、ちょっと心強い自分になれます。本を読むことは、そんな言葉を集めることができるからいいなと思います。
そういえば少し前、スーパーのお弁当がどれだけ底上げされているかを見たくなって、プラスチックのお弁当の淵をはさみで切ってみると、びっくりするほどぺったんこになって切なかったです。ステルス値上げ、恐るべし。

久保沙絵子
イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。
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