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イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作する企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。2冊目は、第13回(平成4年)吉川英治文学新人賞を受賞した中島らもの代表作『今夜、すべてのバーで』です。

久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。

連載2作目は、何かに取り憑かれてしまったとき、苦しくてもぼんやりとやり過ごす主人公のあり方がとてもリアルな、『今夜、すべてのバーで』(著/中島らも)への作品。ずっと手元に置いておこうと思っている一冊です。

『今夜、すべてのバーで』 〈新装版〉
著/中島らも
講談社 (講談社文庫)

この小説では主人公の男性はお酒に取りつかれてしまいますが、取りつかれるといえば、スマホゲームが思い浮かびます。

私は、人生の天気が曇り空のとき、少しでも気分が晴れるように、とびきりおしゃれをしてウィンドウショッピングをしたり、友達とちょっといいランチを食べたり、せず、昼夜問わず一日中スマホゲームをします。

疲れ目でまぶたがけいれんするほどにやりこみます。そうすると、曇り空が一層厚い雲で覆われていきます。底までずーーーんと沈んでから、ばっ!と浮上する。それがわたしのやり過ごし方なのです。

でも、今がとっても辛いんだ……。と、思いながら無表情でスマホゲームをする私(怖いですね。笑)は、現実逃避と抱き合わせで、きちんと何かと闘っている実感があります。

だから、例えば、ひきこもりで部屋から出られない人だって、それはもう、ものすごい闘いを強いられているのだろうと想像します。そんな人が闘い抜いていつか部屋から出てきたときに、”思ってたよりいいやんか、世界。”と感じてもらえるような風景であり、社会であり、人間であれたらいいなと思います。つまるところ、”人にやさしく。”と、なりますね。精進精進……。

私にとって、葉っぱを描くのは楽しくありません。有機物は基本楽しくないのです。

モチーフとして、室外機が好きです。どうしてもおしゃれじゃないところが、私の絵の空気感とよく合います。

ここにきて、地面が見えてきました。
うっすら点を打って、地面の印を残しておきます。

この主人公の闘い方がスマホゲームでなく、部屋に閉じ篭ることでもなく、お酒を飲むことだったことで、新しい別の闘いを強いられてしまった。そんな切なさが、物語の初めから最後まで、BGMみたいにささやかに鳴ってるような感じがします。

切なさがあるはずなのに、主人公を始め、周りを取り巻く人たちの態度は、あえて気に障るような言葉の選び方や、興味本位のニヤニヤ顔がたっぷり含まれ、人間関係に、あらゆる雑さが溢れています。
文中の”アルコール依存症にはマンドリンが1番なんだ。手が震えていいトレモロが弾けるからな。”とか、そういうのです。なんて皮肉。

そんな対応をされてもたやすく心にグサッと刺さる主人公ではないので、安心して読むことができます。

マンドリンってどんな音だっけ、と思って聴きながら、主人公が弾いてるって想像したら面白かったです。たしかに上手に弾けそうだ。

WEB連載「久保沙絵子の勝手に表紙作ります。」は、毎週水曜更新!次回は、2/19(水)公開予定です!
著者

久保沙絵子

イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。

※過去記事は、ハッシュタグ #久保沙絵子の勝手に表紙作ります をクリック

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SAVVY4月号『京都さんぽ』
発売日:2025年2月21日(金)定 価:900円(税込)