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今まで生きてきて
いちばん激しい感情をさらけ出した

 無垢なたたずまいと荒削りだがリアルな演技で頭角を表している木戸大聖さん。大正から昭和初期を舞台に、実在した女優・長谷川泰子、詩人・中原中也、文芸評論家・小林秀雄という男女3人の愛と青春を描いた『ゆきてかへらぬ』では、広瀬すずさんと岡田将生さんと堂々と渡り合っています。

天才詩人・中原中也を
演じるプレッシャー

編集部(以下・編) 木戸さんの中原中也、デカダンスな時代の空気をまとっていてすてきでした。伝説の天才詩人を演じるのはプレッシャーもあったのでは? 
木戸(以下・木) ありましたね。僕自身、実在する人物を演じるのが初めてで。大正時代に生きた若者、しかも天才詩人といわれた中也は今の時代に生きている自分からはほど遠い場所にいる。だから、まず自分から距離を縮めなきゃって。山口県にある中也記念館に行って、いろんな資料を読んで彼について知ることから始めました。
編 木戸さんから見て、中也はどんな人物?
木 すごく純粋で、それゆえ狂気をはらんだ人ですよね。映画では描かれていないんですが、中也は立派な家に生まれて大事に育てられて、神童と呼ばれていた。でも、生きていく中でのギャップや反骨精神から家を飛び出し、泰子と愛し合うようになり、小林秀雄との三角関係に苦しみながらも詩人として名を挙げた。そんなマイナスの感情も含めて、彼は生きていく中で生まれた感情をそのまま詩に投影していた。そんな嘘のない生き方がすごいなと思いました。
編 中也の登場シーンは、トレードマークのマントと帽子に番傘というファッションもあいまって、強烈なインパクトがありました。
木 監督から「なんか変な奴が来た!」という空気を出してほしいと言われて、彼の持っている、ある種異様な雰囲気を出すように意識しました。僕自身、これまで今の時代のどこかにいそうな役を演じることが多かったので、立ち振る舞いも喋り方も、普通にするとどうしても今の若者っぽくなっちゃう。だから、ちゃんとこの時代に生きた若者に見えるように、どこか芝居がかった感じで一言一言をはっきり喋るように意識しました。

僕自身は三角関係になった
時点でスッと引いちゃう(笑)

編 広瀬すずさんと岡田将生さんと三角関係を演じるのは、かなり覚悟が必要だったのでは?
木 経験値のない自分が、この役に抜てきしてもらったことの重さはすごく感じましたね。映画を構成する大きな三角形の軸のひとつである自分がブレてしまったら、三角形自体が成立しなくなる。映画自体がダメになるので、下手な小細工はせず全力でぶつかるしかない。そうでなくてもこの3人は、口ではこう言ってるけど実際はこう思ってる—みたいなところがない。自分の中にある感情をすべてさらけ出す3人のぶつかり合いなので、お二人が100%で来るとしたら自分は120%出さなきゃダメだって。今まで生きてきて一番激しい感情を出しました(笑)。
編 そんなヒリヒリ感こそ本作の魅力ですね。中也が泰子に首を絞められるシーンは演技だと分かっていてもドキドキさせられました。
木 すずちゃんも岡田さんも普段はフラットで話しやすい方なんですが、本番に入った瞬間、目が変わるんですよ。ガーッと泰子であり小林になる。その瞬発力とか憑依(ひょうい)する感じに圧倒されつつ、負けちゃいけない! って毎日、無我夢中でした。
編 中也と泰子と小林の三角関係は、男性二人が女性一人を取り合うといった単純なものではない。小林と中也は互いの才能にほれ込んでいて、泰子を通して互いを見ているふうですらある。泰子もそんな二人に嫉妬しながらうれしそうでもあって、善悪では測れない魅力的な関係だなと思いました。
木 複雑だけど男らしいし人間らしいし、すごく魅力的ですよね。取った取られたで終わっちゃうような関係性じゃなくて、ゆがんだ三角を描きながら最後まで続いていく。僕自身は三角になってるなと認識した時点でスッと引いちゃうタイプなので(笑)。なおさら、あんなふうに生きれたらすてきだなと憧れました。

役を通して願望をかなえ
自分という人間に気付く

編 木戸さん自身は性格も生き方も、中也とは違う?  
木 違いますね。僕に限らず、現代の若者がそうなのかもしれないけど、日常生活ではあそこまで感情をさらけ出すことできてないよなーと改めて思いました。
編 自分とは立場も性格も違う役を演じることは楽しい?
木 楽しいですね。役を“利用する”じゃないけど、自分とは違う役を演じることで自分が普段出せていない内面を出せる楽しさはあって、役を通して自分ではかなえられない願望をかなえてるところはあるかも(笑)。あと自分にはこういう面はないなって、自分という人間に気付くことも多いですし。そういう出会いが好きだったり、面白かったりするから自分は俳優をやってるのかなって。今回も泰子とぶつかり合うシーンとか本当に大変だったんですが、終わった後、スカッとする気持ちよさがあって。快感を感じました(笑)。
編 そんな濃密な日々を終えたオフの日の過ごし方は? 
木 やっぱり普段はなかなか友達とごはんに行けなかったりするので、一つ現場が終わったら友達とごはんに行くというのは、自分の中の流れとしてありますね。俳優の友達もそうですが、学生時代からの友達と会うことは特に、気持ちをリセットして、また次に向かうための大事な時間になっています。

本誌未公開の2カット


Profile
木戸大聖
TAISEI KIDO
1996年に福岡県で生まれ、横浜市で育つ。2017年にドラマ『僕たちがやりました』で俳優デビュー。Netflixシリーズ『First Love 初恋』で脚光を集め、『忍びの家』『海のはじまり』現在放送中のドラマ『バニラな毎日』などの話題作で存在感を発揮している。

CINEMA INFORMATION
映画『ゆきてかへらぬ』
2月21日(金)公開

大正時代の京都。20歳の新進女優・長谷川泰子は17歳の学生・中原中也と出会う。どこか虚勢を張る二人は引かれあい、一緒に暮らし始める。やがて東京に引っ越した二人は、中也の詩人としての才能を誰よりも認める評論家の小林秀雄と出会い、複雑で歪な三角関係が始まる。

©2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会

監督/根岸吉太郎 脚本/田中陽造 出演/広瀬すず、木戸大聖、岡田将生、田中俊介、トータス松本、瀧内公美、草刈民代、カトウシンスケ、藤間爽子、柄本佑 ほか
劇場/TOHOシネマズ二条、TOHOシネマズ梅田、kino cinéma神戸国際 ほか
[映画『ゆきてかへらぬ』公式ホームページ]

衣装協力/ジャケット、ベスト、シャツ、タートルネック、パンツ(以上スズキ タカユキ)/以上スズキ タカユキ、その他スタイリスト私物 スズキ タカユキ☎03-6821-6701

写真/伊藤菜々子 取材・文/井口啓子 スタイリスト/佐々木悠介 ヘアメイク/石邑麻由

※この記事は2025年4月号からの転載です。記事に掲載の情報は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認ください。

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