神戸・元町四丁目の本屋[本の栞]を営む、田邉栞さんの日々のブックマーク
VOL.25
「蝋梅の蕾はすこしずつやわらかくひらく」
text and photo
田邉 栞(たなべ しおり)
神戸で[本の栞]という本屋をやっています。
次回の店内ライブは3月3日、真舟とわさんと井上園子さんの二組です。
1.4 sat.
ゆっくり起きて、布団のなかで昨日観た『ハッピーアワー』 1 の話、あの映画で指す「幸せな時間」というものについての話をする。こうして、布団でだらだらと他愛ない話をすることもその一つ。
今日は仕事初め。年末ごろに親子連れで来てくれて、小さなお子さんが本に興味を示すとそれがどんなものでも丁寧にひらいて見せている様子が印象的だったお客さんが、今度はパートナーの方も連れて三人で来られた。今日も静かにお子さんに本を見せている。お子さんのための絵本『あれ?』 2 と旦那さんのカフカの本を会計したあとに、奥さんがやっぱりこれも買う!と『記憶を食む』 3 をレジに持ってきた。家族三人がそれぞれちがったジャンルの本を買っていくのが、なんだかいいなと思う。「きっと今日はやっていないだろうけど、と話しながら来たから、開いていてうれしい」と言ってくれた。開けていてよかった。
お正月休みで溜まった仕事に追われつつ、お客さんも途切れず、明日の出店準備もあり、てんやわんやで遅がけになんとか片づく。帰宅するとパートナーがごはんの支度をしてくれていた。今日は牛肉の味噌漬け。
1.14 tue.
寝ても寝ても眠たくて何度も目をひらいたりとじたり。色々な夢をみたがどれも断片的、夢はそもそも断片的なものか。出勤して細々とした作業をこなしていくとあっという間に時間が経っている。店に届いた荷物をまとめて開けていたら、あるひとつのレターパックから個包装の飴がころころと4粒出てきた。こんなことははじめてだったので、面食らい、それからちょっと嬉しくなった。飴はすぐに舐めた。濃いりんご味。
昼過ぎ、家のヒーターを消し忘れたような気がして一度見に帰ったらちゃんと消えていた。なあんだと店に戻りつつ、商店街にある[元町マルシェ] 4 の前を通ると店先で蝋梅(ろうばい)が売っているのを見かけた。よくひらいた600円の大ぶりの枝と、かたい蕾(つぼみ)がたくさんついた300円の小さな枝が並んでいて、蕾の方をレジに持ってゆく。レジ打ちのおばさんに、これ、ひらきますかねえ、と話しかけてみると、ひらきます! と食い気味に返された。“蝋梅はね、ひらきます。蕾がかたいから心配だろうけど、大丈夫”。店の花瓶にさしておいて、夜、自宅に持ち帰ろうと手にとったらもういくつかひらきはじめていた。室内が暖かかったからだろうか。おばさんの力づよい「ひらきます!」は正しかった。
届いたZINE『たまたま生まれさせられたあなたへ』 5 をめくっていたら、本文に使われている白い紙がほんのすこしだけきらきらとラメを含んでいることに気がつき、一瞬にしてこの本に対して親密な気持ちを抱いた。誕生日の本。誕生日を祝わないというやさしさの本。
あなたがたまたま生まれさせられたことについて、おめでとうと手放しに祝福することがわたしには出来ない。でも、その周然に眼差しを向けていたい。掌編を書きながらずっと、そればっかりを思っていた気がする。(『たまたま生まれさせられたあなたへ』)
夕飯のあいだにも蝋梅の花がどんどんひらいてゆき、部屋がいい匂い。パートナーはおばあちゃんの家を思い出すと言っていた。庭に木があったのかと聞くと、あれは香水の匂いだった気がすると言う。私が育った高槻の家の庭には蝋梅の木があり、それは祖父の部屋の前だったので、花がひらくといつも祖父が教えてくれた。そういえば、家の目の前の道路にいくつか木蓮の木が植えられていることについこのあいだ気がついた。ふさふさとした蕾がたくさんついている。もうすぐ開くだろう。
- 電話番号080-3855-6606
- 住所神戸市中央区元町通4-6-26 元村ビル1F北
- 営業時間12:00~19:00
- 定休日水・木&不定
- カード使用可