「でも」は言わないように。自分も人も、否定しない。
願い事をかなえてくれる駄菓子屋が舞台の映画「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」。設定はファンタジックだけれど、「願いと欲望の違いってなんだろう……」と大人の心に刺さるのは、伊原六花さん演じる役に実在感があるから。大阪の南河内で育った彼女、天真らんまんなキャラが弾けたインタビューとなりました。
他人と比べないようにするのって、今は難しい
編集部(以下・編) 願いをかなえる駄菓子屋で”おしゃれサブレ“を手に入れる、女性ファッション雑誌の新人編集者の役を演じられましたが、「センス」という姿形なきものと対峙する女の子には胸がしくしくしました。
伊原六花(以下・伊) 原作は子どもたちに人気の作品(児童書)ではあるけれど、同世代が観てくれたら共感できる人物になろう、その役割を全うしないと、と思いました。ファンタジーな作風ですが、ちゃんと地に足の着いたリアルな悩みがありますよね。
編 誰にでもある「何者かにならないといけない」という焦りや悩みをシェアできる役ですよね。「おしゃれになって一流編集者になりたい」という願いが、次第に承認欲求に変わり、欲望が肥大化していきます。
伊 自分がどうなりたいかという願いだったはずが、あの人を追い負かしたいって、どんどん違う方向に進んでしまった。「もっともっと」って欲望が膨らむのって、自分の中に他人の干渉を取り入れてしまったから。人の目を気にしてしまったが故なんですよね。
編 とはいえSNS全盛時代、どうしても他人の目が気になりますよね。
伊 SNSって勝手に入ってくるものだから、人と自分を比べないようにするって難しいですよね。私はもう「抗わない」しか無理かなって。人をうらやましく思う気持ちにはなるので。そんな時は、負の感情にならないようしないとなって思うし、誰かが自分のことを少しでも褒めてくれたら、その言葉は100%で受け取ろうと思います。その言葉に「でも……」って否定で返さないように、って。
編 「でも」が伊原さんの中の禁句でしょうか?
伊 そうですね。自分に対してもそうだけど、人の考え方を否定しないよう気を付けてます。「違う」とか「それおかしない?」とは絶対言わないで、「そういう考え方もあるよね」って。
編 否定しないマインドは昔から?
伊 いや、このお仕事を始めてからです。いろんな人と喋る環境になって、いろんな考え方の人がいることを知れたので。なるほどね、そういう考えもあるんや。えっ、じゃあこの人は、どういう人生を過ごしてきてこの思考回路になったんやろ……って考えるのが楽しくて。自分と合わない人ほど知りたくなる。
引き出しを増やすために、一人、カフェで人物観察。
編 タイプが違う人を掘り下げたくなるって、やっぱりそれは俳優業をしているからでしょうか?
ぱりそれは俳優業をしているからでしょうか?
伊 それはすごく思います。外側からの役作りもできるなぁと思うので。自分とまったく違う人物像の役がきたら、人が集まるカフェに行ったりして。会話とか電話応対とか盗み聞きして、口癖をメモったりしてます(笑)。
編 役を演じるための実地調査!
伊 応用できるかなぁって。電話してる人を観察するとかって、めちゃくちゃ面白いんです。相づちにしても、賛同してるんだな、納得してないんだな、って返事一つで機嫌が分かるんですよね。だとしたら、この台本にあるセリフの「うん」は、どうやって言うのが正解かな、とか考えたりして。
編 人間を見る数を増やそう、という動きをされているわけですね。
伊 すごくかっこよく言うと、その役で生きられたらなぁと思っていて。喋り方も動き方もがらりと変えて、伊原六花の「い」の字も出ないよう、できるだけ役に染まる。それを課題にもしていますし、目標とする俳優像です。
かなえたい夢は……巨大パフェに挑むこと!
編 今回演じた役は”おしゃれサブレ“を手に入れましたが、なんでも願いをかなえてくれる駄菓子屋[銭天堂]がもし実在したとして、伊原さんがリアルに欲しいお菓子って?
伊 実は[銭天堂]には”底なしイ~カ“っていう商品があって(原作とアニメ版に登場)。そのイカを食べれば、底なしに食べられるようになるっていう駄菓子。私めちゃくちゃ大食いなんですけど、それでも胃袋に限度があることが悔しくて……。
編 胃袋のキャパに落胆していると。大食いユーチューバーの動画とか好きですか?
伊 ロシアン佐藤さんとか三年食太郎さんの動画、めっちゃ観ます! あと、節制しないといけない時は、よく食べる友達と飲食店に行きます。自分が食べたいものを注文して、「今食べられへんから、これ食べてくれへん? それで食べてるとこ見せて」って(笑)。
編 それで食の欲求が満たされるのだから、かなりのイマジネーターとお見受けします。
伊 想像力で満たしていきます!
編 じゃあ”底なしイ~カ“で無限の胃袋を手に入れたら、なにを食べましょうか。
伊 チャレンジメニュー的なでっかいパフェですね。ケーキならワンホールいける私でも、パフェの生クリームだけは食べ続けられなくて。でっかいパフェを食べ切る夢をかなえたい。
編 生クリームを諦めたくないと。
伊 諦めないし、挑みたい。生クリームの山を登り切ってみせたいです!
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Profile
伊原六花
RIKKA IHARA
1999年生まれ、大阪・大阪狭山市出身。バブリーダンスで注目を浴びた大阪府立登美丘高等学校のダンス部の元キャプテンで、2018年にドラマで俳優デビュー。最旬俳優として忙しくする中、関西テレビ『よ~いドン!』の準レギュラーとして今も出演中。関西愛強め、好物は南河内のソウルフード・かすうどん。
CINEMA INFORMATION
映画「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」 公開中
幸運な人しかたどり着けない駄菓子屋[銭天堂]。願いをかなえるお菓子が並ぶ中、伊原演じるファッション雑誌の新人編集者に手渡されたのは、自分に似合う服が光って見えるようになる駄菓子。自己肯定感が低そうな女の子が、次第に承認欲求モンスターに?喜怒哀楽全ての感情を表現する伊原六花の俳優魂を目に焼き付けよう。
監督/中田秀夫 原作/廣嶋玲子(作) jyajya(絵) 『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』シリーズ(偕成社 刊)
出演/天海祐希、上白石萌音、大橋和也、伊原六花 ほか
▶TOHOシネマズ二条、TOHOシネマズ梅田、OSシネマズミント神戸 他
https://zenitendo-movie.jp/
写真/中島真美 取材・文/廣田彩香 スタイリスト/椎名倉平
※この記事は2025年2月号からの転載です。記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。