音楽の力を味方につけてメッセージを届けたい
韓国のウェブコミックで累計300万部の大ヒット。ドラマではその年の韓国ドラマ賞を総なめにした『未生(ミセン)』が韓国のクリエーター陣によって世界初の舞台化。主役に抜擢されたのが、数々の映画や舞台で存在感を放つ、前田公輝だ。日本演劇界からも注目を集める今作にかける意気込みを聞いた。
誰もが経験したことのある
共感できる場面がふんだんに
編集部(以下・編) 漫画やドラマで『ミセン』をご覧になったときの率直な感想はいかがでしたか?
前田公輝(以下・前) 最初にドラマを見たのですが、心が緩む作品で、みんなが共感できる場面、知っている感情が散りばめられているなと感じました。ずっと囲碁の世界でやってきて、挫折して商社マンになった主人公のチャン・グレは、ビジネススキルもないし、ずっといろんな感情を削いで、蓋をする生き方をしていたから、自己表現も上手くない。他人の仕事の失敗で責任を取らされても言い訳もしない。でも、そんな彼を受け入れてくれる、器が大きく、自分の正義を貫くオ課長のような上司もいて。職場なのに家族のような温かさを感じましたね。当時はわからなかったけど、父が僕にかけてくれた言葉も、チャン・グレの上司のオ課長のように愛情の裏返しだったりしたのかなと考えたりもしました。
編 それはどんな言葉だったのですか?
前 きれいな言葉でもないし、ちょっと重すぎてどんな言葉かは発表できないのですが、侍のような勇ましい言葉をくれますね。父はパワースポットのような人で、元気とエネルギーをもらえるし、基本的にふざけているんです。でも、急に人が変わったかのように、息子に対してちゃんと教育をする習慣があるんですよ。俳優の仕事をしていると、心をどれだけ平穏に保つかがすごく大事で、僕は基本的には前を向いている人間だけど、やはり考えこんでしまうときもあって。でも、そんなときに父に会うと、自然と胸を張ることができるんですよね。父やオ課長みたいな、多くを語らず、背中で語る男って、男の美学として憧れますね。
編 今作は韓国のクリエイター陣が手がけることも話題ですね。
前 韓国の作品は、人をひきつける力や共感を生む力がすごいと感じています。そこに、日本ならではのカルチャーや空気感を表現できると、新しい『ミセン』になるのかなと思います。
若い頃にした失敗も
自分のエッセンスに変えて
編 ミセン(未生)は囲碁の用語で、碁盤上にある石が完全には生かされていない状態のこと。でも、進め方次第で「ワンセン(完生)=完全に生かされている状態」になる可能性を含んでいて、チャン・グレの境遇を指す言葉として使われています。前田さんの人生の中でも、迷ったり、選択を後悔したりということはありましたか?
前 迷ったことはありましたね。でも、後悔したことはないかもしれないです。学生時代、「学校行事でこんなことやりたいけど、みんなはやる気じゃないかもしれない」と普通なら思うかもですが、僕は果敢に攻めて僕ができることを120%できたらそれでいい、無理だったらしかたないとよく感じていたんです。もう少し相手のことを考えたら良かった、あの時こうしておけば良かったと思うこともありますが、10代20代前半に関しては、むしろそんな経験があったからこそ今があるし、自分のエッセンスになっていると受け入れられるありがたい性格をしているので。
編 前向きな性格なんですね。
前 そんな風に、物事を前向きにとらえられる環境に置いていただいていることが一番の感謝ですね。
子役時代の思い出、
ビリケンさんに会ってみたい
編 大阪での公演期間中、なにか楽しみにされていることや、行きたい場所などはありますか?
前 明石焼きを食べてみたいのと、道頓堀のグリコの看板前で写真を撮りたい。ビリケンさんが大好きなので通天閣にも行ってみたいです。以前、『さわやか3組』というドラマに出演したときに、ゲスト枠で来られていた方からビリケンさんのキーホルダーをいただいて。実家には子役時代に現場でもらったものなどを飾っている場所があるんですが、そこを開けるとまだビリケンさんがいて。詳しくは覚えていないけれど、子どもの頃はそのビリケンさんを神様のように思っていて好きになったのではないかなと。だから、実物に会いにいってみたいですね。
編 運命的ですね。ちなみに、たこ焼きではなく明石焼きに魅かれる理由は?
前 だしやお茶漬け、〆のごはんがわりと好きなのと、カリカリした面がだしの中でちょっとほぐれて、やわらかくなっていく、あの背徳感に似た感覚もすごく好きで。
編 なるほど、意外な理由でした。最後に、関西のファンの方にメッセージをお願いします。
前 『ミセン』が韓国で社会現象になり、新たにリメイクされているのは、時代が変わっても共感できる内容があるからだと思います。自分を犠牲にし過ぎず自分のことを認めて、相手を思いやることの素晴らしさ、温かく幸せな気持ちなども伝わる作品だと思います。自分はなにもできないというチャン・グレの葛藤や自分を責める気持ちを描くシーンもあるので、内容もとにかく明るいわけではない。でも、今回はミュージカルなので音楽の力をプラスすることで、気持ちや作品に込められたメッセージが昇華される瞬間がすごくある。みなさんを世界に誘えるよう、日々研究して準備して参りますので、楽しみにしてください。
Profile
前田公輝
まえだ ごうき
1991年生まれ、神奈川県出身。6歳から子役として活躍。初主演を務めた映画『ひぐらしのなく頃に』、NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』、日本テレビ『私をもらって』、ミュージカル『スリル・ミー』など多数の作品で好演。2024年10月からはラジオNIKKEI第1で『前田公輝のヒラケテヒラク』がスタート。
STAGE INFORMATION
ミュージカル「ミセン」
2025年1月10日(金)〜14日(火)
囲碁のプロ棋士になる夢が絶たれ、商社のインターンとして働く主人公のチャン・グレ(前田)が、囲碁で培った能力や、上司や同僚たちとのチームワークを通じ、未来を切り開くヒューマンストーリー。「自分らしく生きること」とは何かを問いかけ、現代社会を生き抜く全ての人に、一筋の光や活力を与えてくれる作品。
会場/新歌舞伎座
出演/前田公輝、橋本じゅん、清水くるみ、内海啓貴、糸川耀士郎、中井智彦、あべこうじ、東山光明、石川 禅/安蘭けい 他
料金/特別席15,000円、S席1,4000円、A席13,000円、B席9,000円(全席指定)
☎︎06-7730-2222(新歌舞伎座テレホン予約センター/10:00~16:00)
[新歌舞伎座 公演情報]
写真/門脇遼太朗 取材・文/西村円香
※記事に掲載されている情報は11月末のものです。記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。