遺言にして産声。
功が光る日本語ジャズ
☑『Life Is Beautiful』/森山良子
*ソニー・ミュージックレーベルズ レガシープラス
12月18日(水)発売 3,300円
森山良子とプロデューサーの大江千里による「遺言のようなジャズアルバムを作る」計画から作られたという本作。二人の名前になじみのない方にこそ聴いていただきたい! 森山自身のルーツであるジャズに回帰すべくニューヨークへ渡り、ベテランでありながら本場で一から学び、日本語でジャズを歌うという彼女の果敢なアティチュードが、みずみずしい歌声から力強く伝わる。新しい息吹で再び温もりを帯びた名曲「涙そうそう」のセルフカバーは、必聴です。
これが好きなあなたには……
☑『Class of ’88』(2023年)/大江千里
時代を代表するシンガーソングライターからジャズピアニストに転向するためニューヨークへ渡った大江。POP期の楽曲のセルフカバーと新曲を収録した本作は、全曲ボーカルなしのインスト曲ながら、卓越したメロディセンスと歌心があふれ出る。
文/原田美桜
バンド・猫戦の作詞曲とボーカルを担当。猫とワインを愛する日韓ミックスルーツ。来年2/2(日)、神戸・塩屋でのライブが決まりました!
音楽への愛はどこまでも誠実
☑『Chance』/Hedigan’s
*F.C.L.S.(ソニー・ミュージックレーベルズ)
Spotifyほかデジタルリリース
配信中
再始動が発表されたSuchmosのボーカル“YONCE”こと河西洋介、ゆうらん船のベーシスト・本村琢磨らが結成した5人組、Hedigan’sのデビューアルバム。ビンテージ感のある親しみやすいガレージロックサウンドを、円熟味すら漂う抜群のバンドアンサンブルで聴かせてくれる。ポイントとなっているのは、バンド名義で書かれている歌詞。消費社会や過度なショービズに対する皮肉や風刺を随所に入れ込んでいるが、それが逆説的に音楽への愛や慈しみの証左になっているのが魅力である。
これが好きなあなたには……
☑『On The Street Again-Tribute & Origin-』(2023年)/V.A.
ロックレジェンド、THE STREET SLIDERSのトリビュート盤。YONCEはブルージーな「愛の痛手が一晩中」をサイケ感マシマシでカバーしているが、そのときのメンバーがそのままHedigan’sとなる。
文/森 樹
編集者、ライター。自宅至近にレコードバーが開店。早速遊びに行ったら、マスターが一番好きなのはDJ HEAVEYとのこと。信頼できますね。
グルービーさと優雅さを兼ね備えた好作品
☑『Pique』/Dora Morelenbaum
*Unimusic
発売中 2,860円
坂本龍一とのコラボでも知られる偉大なチェロ奏者のJaquesと歌手のPaulaを両親に持ち、トロピカリアの再来とも称されて、一躍現代ブラジルの旗手となったBala Desejoの一員としても活躍する、Doraによる初ソロ作。共同プロデューサーをAna Frango Elétricoが務め、ジャズファンク、メロウソウル、ディスコなどを高度に消化した多彩なサウンドを展開。両親もコーラスやアレンジで客演し、軽快ながらも飽きのこない音で大器ぶりを発揮している。
これが好きなあなたには……
☑『Quem é Quem』(1973年)/João Donato
Doraのアルバムを聴いていて連想したのがこちら。1970年代ブラジル音楽の定番として親しまれ続ける名作だが、プロトAOR的とも呼べるあらゆるジャンルの洒脱な要素が心地よく詰まったようなサウンドは、時を越えたひらめきに満ちている。
文/吉本秀純
大阪在住の音楽ライター。今年リリースのブラジル音楽ではMilton NascimentoとEsperanza Spaldingの共演作も素晴らしかったですね。