music_newdisc_hd

生き急いでいる人も歩みを止めるはず

☑『without you』/burrrn


*DREAMWAVES RECORDS 発売中 2,750円

2005年に東京で結成されたシューゲイザーバンドの約13年ぶりの新作。シューゲイズの中でも1990年代初頭のオールドスクールな音を表現している。ドラムの音が埋もれるほどのギターのごう音の中で、浮遊感のあるボーカルがその波に逆らうでもなく悠々自適に泳ぐ。その上くらくらするほど甘くて、キャッチーでポップなメロディー。溶けていきそうな音の空間にひとたび入り込めば、生き急いでいる人たちでさえ一瞬歩みを止めてしまうに違いない。

これが好きなあなたには……
☑『Isn’t Anything』(1988年)/My Bloody Valentine

シューゲイザー御三家と呼ばれるバンドの一つ、通称マイブラの1stアルバム。暴力的なギターのゆがみと、それに対比するようなツインボーカルの甘美な響き。1stならではの初期衝動を感じられる。これがシューゲイザーというジャンルの原点になる。

文/Tokiyo Ooto
大阪を拠点に活動するシンガーソングライター/ギタリスト。大好きな秋がやってきました。魚を外で焼きたいですね。

架空の記憶を呼ぶ響きの美曲集

☑『Computer Music』/Kazumichi Komatsu


*FLAU Spotifyほか デジタルリリース 配信中

美術家としての活動でも知られる、京都在住の小松千倫(P100)の4年ぶりの新作。好評を得た前作『Emboss Star』の続編と言える作品で、ウォール・オブ・サウンドというか、幾層の響きと奥行きは再生するたびに新たな表情に気付かされる。そんな不思議な全10曲。過去のパフォーマンスの実験の再構築で、いわば後ろ向きで前へ進む一枚。まるで画素数の小さかった頃の写真を見て郷愁に浸る。いや、まるで架空の新しい記憶を呼び起こす、はかなく優美な作。

これが好きなあなたには……
☑『予感』(2024年)/Le Makeup

『ComputerMusic』には前作に続き、ボーカルでDove & Le Makeupが参加。Le Makeupはけれん味のない歌声にホッとするシンガーソングライター。路面電車の風景がどこかノスタルジックに描かれるナンバー「天王寺」をぜひ。

文/中村悠介
編集者。京都市在住。発売中の姉妹誌『Meets Regional』で窪塚洋介&SHINGO☆西成のページを担当しています。マシマシの濃さ。

機械的でいて生々しい、極上グルーブを堪能

☑『There It Goes』/King Pari


*Stones Throw Spotifyほか デジタルリリース 配信中

今年、アメリカの伝説的レーベルStones Throw Recordsと契約したばかりのファンクデュオ、King Pariの新作。透き通るようなハイトーンのボーカルや、抜け感のあるシンセサイザーのサウンドを、骨太のグルーブを奏でるリズム隊が支えるというバランス感覚ゆえ聴き応え抜群で、新人ながらも貫禄すら感じさせる。機械的なドラムとファンキーなベースには、プリンスをはじめとしたミネアポリス・サウンドの影響もうかがえる。古くからのファンクファンにもぜひチェックしてほしい。

これが好きなあなたには……
☑『Coast 2 Coast』(2020年)/Pearl & The Oysters

同じくStonesThrowRecords所属のPearl & The Oystersのアルバム。こちらは夏を感じる爽やかなサイケ・ポップ・サウンドを楽しめる一作。グルーブとサウンドのバランス感、ボーカルの質感などは『There It Goes』にも通じるものがある。

文/北川航成
SAVVY編集部スタッフ。バンド・穴熊のギター担当。今年のベストアルバムは、今のところ柴田聡子『Your Favorite Things』です。

※この記事は2024年12月号からの転載です。記事に掲載の情報は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。
Share
  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
SAVVY1月号『よしもと漫才劇場となんば』
発売日 2024年11月22日(金)定 価 900円(税込)