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今月、スパイされる人
石川るい さん

学術関連の施設で働く社会人。学生時代は本漬けで、大学図書館に入り浸ってました。

テーマは、“他人の空想力に乗っかりたい” 3冊

☑1.『詩と散策』 


著/ハン・ジョンウォン 訳/橋本智保
書肆侃侃房 1,760円

☑2.『家から5分の旅館に泊まる』


著/スズキナオ 太田出版 2,090円

☑3.『グールド魚類画帖』


著/リチャード・フラナガン 訳/渡辺佐智江
白水社 4,950円

自分にない感性やエネルギーが手に入るエッセイ&小説

1冊目は、詩人でもある著者が、敬愛する詩人の言葉を交えながら、詩を読み、散策に出掛ける日々の生活で感じたことをつづるエッセイ。「自分はもともと詩にも詳しくないし、著者のことも知らなかったのですが、なんだか表紙に引かれて手に取りました」。確かに澄み切った冬の野原のような表紙が印象的。「20編以上のエッセイが収録されていて、特にすてきだなと思ったのが、冬の凍った川を見るのが好き、という話の中で、氷が砕ける音を冬の声と表現していたところ。この中に登場するウォレス・スティーヴンズの詩もいいなと思いました」。本を手に取ったのがちょうどややこしい本や資料を読み込んでいる最中だったそうで「合間にこの本を読むことで頭がリラックスできたような気もします」

 2冊目は『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』でも話題を呼んだ、ライターとしても活躍する著者のエッセイ。「ある意味、旅行記とも言えるのでしょうか。自分の住んでいるすぐ近所、日々『誰が利用しているんだろう』と思いながら通り過ぎていた旅館に思い立って宿泊する話、なんだかいいな〜と思いました。日常と別の場所に身を置く=遠くに旅するようなイメージで考えがちだけど、いつもと違う道から帰るとか、いつもと違う部屋で眠るとか、本当にちょっとしたことで体験できるぜいたくなんだなって」。

 「たまにはがっつり小説を読みたい、と思って」手に取った3冊目は、石川さんいわくカロリー高めの本とのこと。「流刑先のタスマニアの孤島でグールドという人物が残した魚類画を後世に見つけた作者が、彼の数奇な運命を追う……という設定。全て創作なのですが、植民地時代の無法や暴力にへきえきしつつも、グールドのエネルギッシュさに引っ張られて読み終えました」。いわゆる伝奇小説的な体裁だが、著者の想像力のすごさに圧倒されたそう。自分では思いつかない表現や感性に出合えるのが本の面白いところ、と実感した石川さんでした。

※この記事は2024年11月号からの転載です。記事に掲載されている情報は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認ください。
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