このアーティスト、要チェック! 今月のNEWSな人
取材・文/竹内 厚 写真/岩本順平
『デコレータークラブ』
期間:開催中~10月19日(土)
場所:Gallery Nomart
あの“猫の小林さん”が
いつしか作品の大事な要素に
神戸を拠点に全国の美術館やアートプロジェクトで作品を発表している飯川雄大さん。その展覧会を見たことがなくても、もしかしたら神戸の街なかに多く展開され、販売もされている、ゆるかわいいネコのキャラクターとグッズを見かけたことがあるかもしれない。それが飯川さんの手掛ける「猫の小林さん」。
「小林さんは、僕が学生時代に描いた先生(映像作家の小林はくどう氏)の似顔絵がもとになっているので、18歳から描いていることになります。かわいいって言ってくれる人もいたので、友達にあげるためだけに小林さんのiPhoneケースを作ったりして(笑)」
いつしか「猫の小林さん」グッズがどんどん増えていく中で、2016年の『六甲ミーツ・アート芸術散歩』あたりから、飯川さんの美術作品にも「猫の小林さん」が登場するようになっていく。たとえば、巨大なピンク色の小林さんの立体作品とか(下右)。
「インパクトがあって目を引くけど、写真や映像で記録しようとしても全貌を写せない、そういう作品があれば面白いと思ったんです。美術館にある彫刻作品の多くは、鑑賞者との距離や照明や空間を意識した美しい展示が当たり前になっていて、それへの違和感も含めて、本来しっかり見せるべき作品をわざと隠れるような形で展示しようと。そのときに、世界中で愛されていて、けれど、写真にうまく撮れないネコっていうのが、ちょうどいいアイコンとしても使えるなって」
もともとは、主に映像や写真を使った作品をギャラリーで発表し、現代美術ど真ん中のフィールドで活動していた飯川さんだが、この10年ほどは公園などの公共空間にも飛び出して、鑑賞者の関与が作品を動かすようなインスタレーションを展開。現代美術に慣れていない層にも作品を届けている。といって、とっつきやすさの一方で、美術ならではのコンセプトや作家としての思考を手放したわけでもない。
「『デコレータークラブ』というシリーズの作品は、2007年に書いた声明文みたいなテキストがあって、作品がブレないように、それに基づいてひとつずつ作品を制作しています。これって僕が長くやり続けるためにはコンセプトがあったほうがいい、みたいな逆算した結果でもあって。作品ごとに毎回テーマを見つけて何年もかけて制作と発表を繰り返すビジョンを、どうしても自分では持つことができなかったんです」
今春には初の作品集『デコレータークラブ』を刊行。そして今月、約10年ぶりとなる現代美術ギャラリーでの個展を開催。新作はもちろん、作品アイデアや「猫の小林さん」を描いたドローイング、初期のインスタレーション作品の再現なども予定している。
飯川雄大 いいかわ たけひろ
1981年兵庫県生まれ。今回の撮影は、「2022年に[兵庫県立美術館]と[国立国際美術館]で同時期に作品展示をした際に借りた」という六甲の作業場にて。
『デコレータークラブ』
期間:開催中~10月19日(土)
場所:Gallery Nomart
- 住所大阪市城東区永田3-5-22
- 営業時間13:00~19:00
- 休館日日・祝
- 料金なし
- アクセス大阪メトロ深江橋駅から徒歩7分