interview_上川_HE-100

僕にとって役者の仕事は
常に「楽しむもの」なんです。

 上川隆也が演じる役は、善人であれ悪人であれ、何とも拒絶しがたい魅力がある。30年近くにわたってドラマの出演が途切れることがないのは、その揺るぎなき演技力ゆえだろう。一方、役者人生の出発点となった演劇の世界でも、時代劇からミュージカルまで、数多くの作品に出演。「推理劇の最高傑作」と言われる最新主演舞台『罠』では、どんな上川の姿に出会えるのだろう?

化ける可能性があるのなら
サプライズを仕掛けることも

編集部(以下、編)『罠』は、かのA・ヒッチコック監督も映像化を望んだという戯曲です。単なる犯人探しではなく「この人は何を考えているのか?」と、登場人物たちと一緒に迷路に迷い込むような感じが、他のサスペンスとは一味違うと思いました。
上川(以下、上)お客さまが、そうした感覚にとらわれる作品なのは間違いないと思います。迷路の路地ごとに現れる人物の行動は、きっと予想とは違うものであり続けますから。でもあらかじめ戯曲を読んでしまうと、その迷路をいきなり上から見てしまったような感じになるので、僕としては、ちょっと損した気分がぬぐえない(笑)。今すぐ記憶をなくしたいとすら思います。
編 上川さんが演じるカンタン警部は、この複雑な事件の謎を解く、中心となる人物です。どのようなスタンスで演じようと思っていますか?
上 登場人物の中で、一番振り幅を設けやすい人物だと受け取りました。踏まえるべき事柄と、踏みとどまるべき領域はあると思うので、その枠のなかで探っていきたいです。物語自体もいろんなアプローチの仕方があるように感じられるので、深作(健太/演出)さんがどのような味付けをしていくのかが楽しみですし、6人のキャラクターが相なす「罠」の一翼を、しっかり担っていきたい。特に演劇は、稽古期間はもちろん、本番でも回数を重ねるごとに味が変わっていく面白さがあって、そこは舞台だからこその醍醐味だと感じています。
編 では本番に入ってからも、まだまだいろんなことを試したくなるタイプですか?
上 解釈や表現の仕方が、ある種役者にゆだねられている余地に関して「こんなこともできるな」と思ったら、相手役に相談もせずに、サプライズのように投げかけることもあります。もちろん演出家や相手役に配慮はしますけど、反省よりは可能性の方を見ているように思います。そうすることによって、相手も自分もいい方向に化けることができるかもしれない。そうした試みというものには、常に積極的でありたいと思っています。

生身の人間にできる限界を
想像力で超えるために……

編 それは演技に対して、すごく攻めの姿勢ですよね。その長いキャリアの中で、谷に入ったような気分に陥ったことは、今まであったんですか?
上 スランプみたいな言葉で申し上げてよろしいのであれば、ないです。演技をスポーツに例えるなら、毎回競技が変わっていくので。その競技ごとに対応していく事が常に目新しい作業で、飽きるということがないし、前回のやり方に拘泥することもない。だから毎回新鮮な気持ちで、一つひとつの作品に向き合ってたらここにいた、という感覚です。だから「あの作品もこの作品も楽しかった」と振り返ることができても「あれは大変だった」という気持ちを持ちながら、思い出す役はありません。ただ恵まれているだけかもしれませんが、僕にとって芝居は常に「楽しむもの」というカテゴリーにあるから、ネガティブな思いを抱かずに過ごせているのかもしれません。
編 ちなみに上川さんはアニメーション好きで有名ですが、それが役者の仕事でも、役に立ったりすることはあるのでしょうか。
上 正直に申し上げると、ないことはないと思います。アニメーションは、アニメーターが「こんな風に動かしてみたい」と思うことが、100%実現できますけど、もちろん人間にはそんなことは到底無理。でも軸足をそこに置いてみると、生身の人間の限界を、想像力だけでは超えることができるんです。そこから固定概念の領域を超えたり、はみ出すきっかけになるという点において、とても有益なツールになっています。
編 関西公演に来た時は、あちこちのお店に行く方ですか? それとも劇場とホテルを往復するだけで終わるとか……。
上 大阪に限らず、どちらにおもむいても、宿と小屋(劇場)が居場所の全てになることが多いです。以前ある番組で京都に通っていた時も、ずっと宿と撮影所ばかりを行き来して、京都をほとんど知らないまま終わりました(笑)。でも差し入れに関しては、大阪は粉モノ一つとってもおいしいので、東京者にはうれしい限りです。ネギ焼きって驚くぐらいおいしいけど、東京だと売っている店を探すだけでも一苦労ですから。
編 最後にSAVVY読者に向けた、『罠』の見どころを教えていただけますか?
上 「間違いなく楽しめる」と言うと口幅ったいですが、この作品にしかないスリリングな思いを、間違いなくご享受いただけることは、信じていただいても構わないでしょう。あとは出演する役者たちが、これまで見たことのなかったような、物語の中で躍動する姿を、ご覧いただける作品になるのではないかと思います。
編 ということは、今まで見たことがなかったような上川隆也が見られると思ってもいいですか?
上 私だけは省いてください(笑)。私に関しては、何一つ保証はできませんので。

PROFILE
上川隆也
TAKAYA KAMIKAWA
1965年生まれ、東京都出身。1989~2009年に「演劇集団キャラメルボックス」に所属し、看板俳優として活躍。1995年『大地の子』(NHK)主演に抜擢されて注目を浴び、2006年に大河ドラマ『功名が辻』(NHK)で仲間由紀恵とW主演を果たす。代表作に、ドラマ『遺留捜査シリーズ』(EX)、『執事 西園寺の名推理』(TX)など。

☑ステージINFORMATION

『罠』 11月2日(土)〜3日(日)@梅田芸術劇場

新婚の妻が行方不明になった事件を捜査中のカンタン警部。夫の部屋を訪ねた時に、ちょうどその妻が戻ってくるが、夫は彼女を「知らない女性だ」と言い張る……。幾重にも仕掛けられた「罠」の巧みさで、世界各地で上演されたフランスの名作戯曲に、上川や藤原紀香などの、舞台経験豊富な俳優たちが挑む。

作/ロベール・トマ 演出/深作健太
出演/上川隆也、藤原紀香、渡辺 大、財木琢磨、藤本隆宏、凰稀かなめ、赤名竜乃介
料金/11,500円(全席指定) 問い合わせ/☎︎06-6377-3888(梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ)

写真/木村華子 取材・文/吉永美和子

※この記事は、2024年11月号からの転載です。

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SAVVY11月号『神戸』
発売日 2024年9月21日(土)定 価 900円(税込)