神戸・元町四丁目の本屋[本の栞]を営む、田邉栞さんの日々のブックマーク
VOL.19
「シウマイ弁当、なにから食べる?」
text and photo
田邉 栞(たなべ しおり)
神戸で[本の栞]という本屋をやっています。
姉妹誌の『Meets Regional』9月号「みんなの居酒屋」にて
みじかいエッセイを書かせていただきました。そちらもぜひ。
7.9 tue.
冷蔵庫にあったものをてきとうに食べて出勤。オンラインの発送やら、届いた本の開封作業やらをさっさか終えてしまう。やらなくてはいけないことを早く終えると気持ちがいい、そんなことはずっと知っているのだが、なかなか実行にうつすことは出来ない。去年の3月に出たカセットテープにまつわるインタビュー本『ライク・ア・ローリングカセット』 1 に創さん 2 の名前があることに気づき、作業の手をとめてすこし読む。創さんの話すことはいつだって格好良い。もう何度も繰り返し聞いたような言葉もたくさんあるのに。むしろ繰り返すことによって強度を増しているのだろうか。
でも結局、気がついたら出入りしてた連中は全員死んだんですよ。で、中島(らも)の晩年によく電話がかかってきて、“俺とお前だけやな、生き残ったんは”って。
先日の「ふたばZINEフェス」 3 でいただいた『書いてばかりいた』 4 を読む。機微をうつすいい日記。自らデザインされたという角丸の装丁もかわいい。わたしには子どもを産み育てるということはきっといつまで経ってもわからないが、それでも日記だと、暮らしの立場がまったくちがうようなひとともすこしばかり同化することが出来るような気がする。
学生時代の下宿、新卒、新婚のときのマンション。その時々、部屋は当たり前に私の生活だったのに今はもう思い出せないところも多い。この部屋もそうなるのだろう。古ぼけたクリーム色のキッチン、なぜかランプをつけないと回らない換気扇、と言葉にするほど覚えておけない、書きとめられないことがするすると落ちていく。
「あいつ、こんなところで本買ってんの?」と、入ってきた若い男の子ふたりがひそひそと話しているのが聞こえてきてニュアンスを測りかねていたら、そのあとしばらくして、「本にまだ慣れてないから……」、「でも自分で選ばないと意味ないし」と、またひそひそ言っているのが聞こえてきた。吉田篤弘 5 や、アンソロジー形式のリトルプレスなどをそれぞれ買っていってくれた。
帰って、シンクの前に立ったまますももを食べる。さくらんぼと桃のちょうどあいだくらいの果物。皮のあたりが酸っぱい。明け方に目が覚めたとき、部屋のなかがそとの光でうす青かった。
7.13 sat.
臨時休業、写真展の搬入。崎陽軒のシウマイ弁当をお土産にもらったので設営が終わってからもくもく食べる。やっぱりこの弁当がいちばんうまい、でも横浜駅で買ったやつのがおいしかったような気もする、ひもがかかってるやつ、あれはどうやらつくっているところがちがうらしい、ああそうなんだ、などの会話。友人はなんと杏(あんず)を最初に食べてしまうらしい。信じられない!
快速でのろのろ京都へ。行こうとしていた喫茶店は16時までだったらしく、目の前で閉められていった。どこかべつを探すか、あそこなんかどうだろう、とその場に立ったまま話していたら、店のおばちゃんがそこも16時までやったはず……と教えてくれ、しばらく一緒になって行き先を考えてくれた。その間、おばちゃんはずっとアリを殺すスプレーを撒いていた。
結局近くに都合のよい店は見つからず、わたしがマップになんとなくピンを立てていたジャズ喫茶[ヤマトヤ] 6 へ。静かな秩序のある良い店だった。チーズトーストを頼んだら、プロセスチーズをかたまりから切りだして、バターを塗って焼いてくれるタイプのやつが出てきた。パンよりもチーズの方が分厚いような気すらしたが、それは流石に気のせいだろう。昔はたらいていた祇園の喫茶店を思い出しながら、夢中で、そして無言で食べた。
ロームシアター 7 へ移動して、今日のメインのコーネリアス 8 。30周年おめでとう、そしてありがとうの、大盤振舞い、大サービスなライブ。古い曲やめずらしい曲も当然うれしかったが、なによりも新曲がたまらなくかっこよかったのが、30周年のコーネリアスだった。
- 電話番号080-3855-6606
- 住所神戸市中央区元町通4-6-26 元村ビル1F北
- 営業時間12:00~19:00
- 定休日水・木&不定
- カード使用可