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今月のNEWSな人

取材・文/竹内 厚 写真/小檜山貴裕

『白髪一雄の好奇心 林 葵衣+』

期間:8月31日(土)~9月23日(月・祝)
場所:ギャラリーアルカイック

“白髪一雄(しらがかずお)の作品を制作してみる”
という稀有な体験


 5年ほど前に林 葵衣さんに取材したときには、口紅を塗った口を壁やキャンバスに押し付けながら声を出してその跡を残す唇拓の作品を作っていた。そういった制作スタイルを言葉で説明すると、どこかパフォーマンスめいて想像されるかもしれないが、本人にはその制作風景を積極的に見せるつもりはなかったという。
 「気持ち悪いと思う人もいるだろうからあまり見せないほうがいいと思ってたんですけど、たまたま見た人に面白いと言われて、公開制作としてやってみたことは何度かあります。けれど、制作中は目の前のことに集中してしまうので、見られる自分に意識を向けることもできなくて、あくまでも制作している様子を勝手に見てもらってるなというくらいの感覚です」
 林さんは2022年、尼崎市が主催する第1回白髪一雄現代美術賞を受賞。白髪一雄といえば、「具体」のメンバーにして、縦横無尽に足で描くフット・ペインティングでも知られる。自身の身体の痕跡を強く残した作品という点で林さんの作品にも通じるところもある気がするが、受賞まで白髪のことを深くは知らなかったという。
 「(受賞後に)尼崎の白髪一雄記念室で実際の作品や資料を見せてもらったら、ダイナミックに足で描いた人みたいに思われがちですけど、当然、それはごく一部の作品だし、絵画を深く追求する中での試みの一つだとわかりました。しかも、『作品計画帳』という作品プランを記したノートが残っていて、それもすごく興味深くて」
 ちょうど白髪一雄生誕100年にあたる本年に、白髪の展覧会『生誕100年 白髪一雄「行為にこそ総てをかけて」』が開催。その関連企画として、林さんが白髪の『作品計画帳』にのっとった作品を制作して発表することも決定した。たとえば、ロール紙に絵の具を置いておき、そこを跳びながら踏みつぶしていくという「跳んでできる絵」など、3作品を予定している。
 「『計画帳』のとおりにやろうとしているけど、やっぱり白髪さんのやりたかったこととは絶対違ってるだろうなとは思います。白髪さんとは足の大きさも違うし歩幅も違う。私は全然筋力がなくて、小刻みにしか飛べないんです。絵の具が滑りそうで怖いし、絵の具に乗っかるとすごく気持ち悪いし……やっぱり、書かれた指示から想像するのと実際にやってみるのとでは全然違っていて、ただ、そこは普段の私の作品にも共通するかなって。自分の体って自分で意図するようにはコントロールできなくて、そのずれの面白さを可視化するような作品を作ってきたつもりなので」
 半世紀以上の時間を経て、林 葵衣が制作する白髪一雄の作品。その過程も興味深い。展覧会では、制作風景を映した動画や林さんの過去作もあわせて展示される。

試作途中の「跳んでできる絵」。今回の白髪作品の制作には、藤本由紀夫らアート・デザインプロジェクトのphono/graphのメンバーも協力している。

言葉を口にする際の口腔内の動きをポリエチレン樹脂で型どった林さんの作品「phonation piece」(撮影:守屋友樹)

林 葵衣 HAYASHI AOI
1988年京都市生まれ。音声をはじめとする身体の振る舞いに独自の形を与え提示する。2025年3月には豊中市立市民ギャラリーで個展も予定。

『白髪一雄の好奇心 林 葵衣+』
期間:8月31日(土)~9月23日(月・祝)
場所:ギャラリーアルカイック

店舗情報
兵庫・尼崎
ギャラリーアルカイック
  • 住所
    尼崎市昭和通2-7-16 尼崎市総合文化センター2F
  • 営業時間
    10:00~17:00(最終入場~16:30)
  • 定休日
  • 入場料
    無料
  • アクセス
    阪神尼崎駅から徒歩5分
※この記事は2024年10月号からの転載です。記事に掲載されている情報 (価格、営業時間、定休日など) は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。
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SAVVY10月号『梅田』
発売日 2024年8月23日(金)定 価 900円(税込)