神戸・元町四丁目の本屋[本の栞]を営む、田邉栞さんの日々のブックマーク
VOL.18
夕暮れにならぶ白紫陽花の群れたち
text and photo
田邉 栞(たなべ しおり)
神戸[本の栞]の次回イベントは7月31日(水)、
植野隆司さん(テニスコーツ)と岡村基紀さん(odd eyes)のツーマンライブです。ぜひ!
6.16 sun.
日差しがいつのまにやら夏になっている。今年は、すごしやすい時期が長かったようにおもう。
SONO SONO 1 で本を買ったんです、という女のひとが店に来てくれた。あのときに買った本、内容も知らずに表紙でなんとなく選んだんですけど、自分の好きなものがたくさん出てきて、おまもりのような本でした。お礼を言いたくてラブレターを書いたんです。と言って手紙を渡された。わたしに! 作者でなく?と面食らう。見送ってから手紙をそっとひらいて読んだ。レタリングのようにきれいにそろった文字で『犬まみれは春の季語』 2 に出会えたうれしさを綴ってあった。「この本と出会ったおかげで私の春は紛れもない春になりました」、「季節が巡る度に訪れたくなる本屋さんが神戸にあることを知っている私はとてもラッキーです」。著者の柴沼さんにもメールで共有したら、驚きすぎて笑ってしまうような気持ちです、と言っていた。突然の褒められに面食らうわれわれ。
家に帰って[杏杏] 3 の豚まんと卵まんを二つずつ蒸して交互に食べ、猫と遊んで、『キッチンにて』 4 の1冊め、つづけて『私の生活改善運動』 5 を読み返す。焚きつけられて本棚の片付けを。ずっと読まないままの本を棚から出して、店へ持っていくかばんに入れた。風通しがよくなって、また本を買いたくなる。
話し終えたら、向こうから老人が近づいてくる。また知らない家のひとかと挨拶しようかと思ったら、「主人ですの」と。「この間、お菓子頂いて、ありがとうございます」と挨拶された。精悍なひとだった。
ふと、老婦人の「主人ですの」という言葉が耳に繰り返される。何とも安心した平和で、艶っぽい声色だった。少し泣きたくなった。
(『キッチンにて』より)
6.20 thu.
なんとも絶妙な時間に起き、パルシネマ 6 に行くか迷いながらしばらくうとうとして、結局ぎりぎりになってから猛烈ないきおいで用意をしてみたら間に合った。エリセの『瞳をとじて』 7 をやっと観た。3時間弱、パルのやや前傾気味の椅子で体は疲れたが、映画の内と外で重なるラストショットは映画館で観ることができて良かった。エリセの、映画へのつよい気持ちがぐんぐん伝わってきた。映画って本当にいいものだ。
[松岡珈琲店] 8 でへんな時間にジャムバタートーストを食べてしまったことをやや後悔しながら阪急電車に乗る。本当はたまごサンドが食べたかったが、なんとか我慢した。腹ごなしの散歩がてら夙川沿いを歩いて向かっていたら紫陽花(あじさい)がたっぷり咲いていた。知らなかったのでなんだかラッキー。夕暮れの仄暗い川沿いに、白い紫陽花の群れがぼんやり浮かぶさまには、夢の中とか天国とか、そういうたぐいのものを思い浮かべる。
一緒にごはんを食べた友人に、自然に相手を気づかうことのできるひとってなかなかいないから、そういうひとは貴重だよね、と言った言葉が自分に跳ね返ってきた。そうなんだよ。近所でデザートがわりに杏仁豆腐の味のお酒を飲んで帰る。氷がひとりでにくるくるとまわっていた。
- 電話番号080-3855-6606
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- 定休日水・木&不定
- カード使用可