アフロビーツに縛られない
個性と天性の歌声
☑『Born in the Wild』/Tems
*RCA Spotify ほかデジタルリリース 配信中
世界に躍進するナイジェリア勢のなかでも、深みのある歌声と高いソングライティング力で別格の個性を示してきたTemsによる待望の初アルバム。アフロビーツの最新モードを押さえたダンサブルな曲も高水準だが、いわゆるR&Bディーバ的な華やかさより、自身の内面や人生を表現することに重きを置いた姿勢が際立っている。これまでのスタイリッシュな持ち味は保ちながらもさらに一歩踏み込み、彼女ならではの個性をより強く感じさせる。
これが好きなあなたには……
☑『The Year I Turned 21』(2024年)/Ayra Starr
どこかオルタナティブな感覚が魅力なTemsの一方で、アフロビーツ界の新世代ディーバとして躍進を続けているのが彼女。売れっ子プロデュ―サー陣による良質トラックぞろいで、21歳にして早くも女王の風格すら。
文/吉本秀純
大阪市在住の音楽ライター。9/26(木)に京都で開催される、ブラジル音楽の巨匠にして元・文化大臣であるジルベルト・ジルの公演は必見!
不易流行のなめらかなシティブレンド
☑『City Habits』/brkfstblend
*go home records Spotify ほかデジタルリリース 配信中
70’を彷彿とさせる音楽性ながら、特有の“いなたさ”さえもフレーバーへと昇華するソフィスティケートされたバンドアンサンブル。2023年夏結成の新鋭バンド・brkfstblendの1st EPは昨今のレコードブームやリバイバルの文脈とは一線を画す、本当の意味でのモダンな輪郭を帯びた楽曲群だ。大胆な展開をみせるインタールードから流動的かつ挑戦的な彼らのライブバンドとしての矜持も垣間見られる「City Habits」は必聴。
これが好きなあなたには……
☑『Hard Candy』(1976年)/Ned Doheny
AORの金字塔として名高い本作。特筆されがちな都会的センスや洗練されたサウンドもさることながら、ハートウォーミングなアコースティックギターやボーカルと相まるメロディセンスこそが、時代を超えて愛される所以!
文/原田美桜
バンド・猫戦の作詞曲と ボーカルを担当する、ネコとワインを愛する日韓ミックスルーツ。ネコの換毛に合わせて前髪を切りました。
魔法とは構築と破壊の美
☑『魔法学校』/長谷川白紙
*Beat Records / Brainfeeder 7月24日(水)発売 2,860円
混沌を表現するトリッキーなエレクトロビート、ときにオートチューンを駆使し、ジェンダーや人格すら固定しない変容のボーカリゼーションにより、新世代のポップスを開拓する長谷川白紙。本作は、フライング・ロータス主宰のレーベル、ブレインフィーダーへと移籍後、初となるフルアルバム。エクスペリメンタルなダンストラック「口の花火」や、絶頂の浮遊感を備えた白昼夢ポップ「ボーイズ・テクスチャ―」など、徹底的な構築と破壊の美にどこまでも圧倒される。
これが好きなあなたには……
☑『Kill Sound Before Sound Kills You』(2003年)/Kid606
ベネズエラ出身の電子音楽家によるブレイクコア~エレクトロ作。ラガ~レゲエ色が強いが、ユーモアと官能が性急なビートの中で無邪気に揺れ動く様は、長谷川白紙のサウンドに通じるものがある。
文/森 樹
編集者、ライター。肩こりや腰痛を持たないことだけが自慢だったのに、先日ギックリ首のようなものになって一日動けずでした。