神戸・元町四丁目の本屋[本の栞]を営む、田邉栞さんの日々のブックマーク
VOL.17
なんでもない日の夜中のケーキ
text and photo
田邉 栞(たなべ しおり)
神戸で[本の栞]という本屋をやっています。
猫が毎朝4時に起こしてきます。
5.4 sat.
店を閉めて、ずっと公開をたのしみにしていた『悪は存在しない』 1 を観に行く。すごかった! 映画が終わった瞬間からしばらく興奮でどうしたらいいかわからなくて、とりあえず自分の店に戻って(元町映画館から本の栞は徒歩30秒くらいでこういうときいつも助かる)、パンフレットについていた7インチを流して店のなかをただうろうろしていた。7インチには薪わりの音が入っていてぞくぞくした。関西での公開初日だったこともあってか、周辺の席のひとたちの息づかいが変わった瞬間が分かった(というか実際に声に出ていたひともいた)。
観終えた直後は、なんでもいいからだれか観たひとと話をしたいとおもっていたのだけど、だんだん、このたかぶりはただのたかぶりとして置いたままにしてよいのではないかと、意味を探したり求めたりすることがもったいないようにおもえてきた。すべての物事に答えや落としどころを見つけなくてもよいのではないか。
悪は存在しない、(それぞれの事情があるのだから)悪は存在しない、悪は存在しない(本当に?)。「悪いひとではないんだけどね」と言われたときにわたしがいつもおもうこと、本当に悪いひとなんてふつうの暮らしにはほとんど存在しない、じゃあ、自分にとって悪いひとなら、やっぱりそれは悪いひとなんじゃないか、ということについて考えたりしている。
5.13 mon.
グッゲンハイム邸にて出店。今回は車などではなく手運びだったので控えめに。品物が少なかったわりによく売れて、帰りには半分くらいになった。雨上がりの夕方のグッゲンは、ちょっと出来すぎなほどに美しくて気持ちがよかった。リハーサルの、ほとんどだれもいない空間で浮と港 2 とGOFISH 3 ともつさん 4 の演奏を堪能する。贅沢な時間。でも、本番の「あかるいくらい」と「肺」は、ちょっとふるえるほどだった。やっぱりリハとは明らかにちがっていて、声や音のちから、みたいなものがその場にあった。
出演者のみなさんは本もたのしげに選んでくださった。お客さんで来ていたゑでぃさん 5 や豊田さん 6 も。うれしいなあ。うれしい日。
大きな荷物をかかえて電車で帰ったら、パートナーが駅まで自転車で迎えに来てくれたのでかごに荷物を乗せてもらった。昼に母がくれたケーキを2人で4つ食べる。なんでもない日の夜中に食べるケーキこそ特別なものとなる。
5.15 wed.
休みのわりに早く目覚めたのでそのまま起きて、[マルキーズキムラヤ] 7 へ行ってパンを買う。[マルキーズキムラヤ]、って、なんで店の名前がふたつくっついたみたいになってるんだろうね、先代がキムラヤで、それを継いだんじゃないか、とか話しながら歩く。猫と三人で昼寝し、前の日にもらった野菜でごはんをつくった。休みの日の昼間にだらだら料理をするのは豊かですごくいい。夕方の家の光がきれいだった。
ほとんど外に出ていなかったので、歩いてパートナーの家まで行く。すっかり日が長くなった。せっかく出かけたのになにもせず家に帰るのもったいないな、と言うと、お茶でもするかとナイスな提案。わたしもそうおもっていました。近所だが行ったことのなかった[カフェクリュ] 8 へ行く。小さくてかわいらしい、よい感じの店だった。家の近くでお茶をするのもまた豊か。
『私運転日記』 9 を眠るまえに読み終える。大崎さんの家のごはんがおいしそうでお腹がすいてきた。日記のよいところのひとつは、ものごとの流れの途中でそのひとが出した決意や結論が、そのまま(もちろん推敲などあるし本当の意味でのそのままではないのだろうけれど)書かれることだ。それが本の終わりで変わったり、揺らいだとしても、そのとき考えていたことはそのままのこる。考えがその都度で変わることは、なにもわるいことではないのだと、いつも信じさせてくれる。
日記のなかで嘘をつくことについて(大いに嘘をついてよいこと)
忘れたくないことも、忘れがたいことも、早く忘れたいことも、日記に書いてしまえば、安心して忘れられる。すべて忘れても何ひとつ忘れることなんてないことを、日記を書くことは慰めてくれる。
- 電話番号080-3855-6606
- 住所神戸市中央区元町通4-6-26 元村ビル1F北
- 営業時間12:00~19:00
- 定休日水・木&不定
- カード使用可