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取材・文/竹内 厚 写真/西島 渚

『「ART OSAKA 2024」 Expanded Section』

期間:7月18日(木)~22日(月)
場所:クリエイティブセンター大阪(名村造船所大阪工場跡地)

何気ない落書きを
ボリュームある木彫に


 葭村さんの手掛ける木彫作品はモチーフ選びからしてユニークだ。街で見かけた落書きなどを木彫作品にしているのだが、それがクールなグラフィティというのでもなく、ささっと何の気なしに描いたような落書きを積極的に選んで作品にしている。そのきっかけは、2021年、古い文化住宅を再活用した北加賀屋の建物[千鳥文化]での個展だったという。
「会場を下見していたら、普段使われてない部屋の柱に落書きがあったんです。アニメを見た子どもがマジックで適当に描いたような絵。これはいいもの見つけた! と思って。好きなものをただ自由に描くっていう、僕が美術を始めてから忘れてしまってた感覚も感じたんです」
 落書きを作品に。説明すればひと言だけど、子どもが数秒で走り書きしたような落書きを木彫作品に仕上げるには、当然、かなりの時間と労力がかかっている。そのモチベーションって一体なんだろう。
 「なんでこんなことをわざわざやってるんやろ、っていうのは僕もずっと思ってます(笑)。ただ見つけたものを写真に撮ってSNSに上げるだけでもいいけど、それこそ他の人がやればいいことで。僕ができること、やっているのは、見つけたモチーフをサンプリングして、そのパワーを増大させて、さらに誇張した形でよりよく見せることかなって思っています」
 コロナ禍中には、Googleのストリートビューで見つけた海外の街角の落書きを木彫化して、その位置情報のQRコードを付けて展示するという作品に発展。ここでも面白いのが、ストリートビュー上で粗い解像度でしか見ることができないものは、その粗い見えのままに制作していること。
 「正面から撮影された落書きばかりではなく、斜めからしか見られないものもあるので、それも全て画像で見えるとおりに作ってます。僕が思う彫刻は、台座に作品が自立しているようないわゆる彫刻とは、ちょっと違ってるんだと思います。しかも木で作ると、どこかプリミティブで野暮ったい雰囲気になって、それも好きなんです」
 次の展示では、これもストリートビューで見つけたとある国のとある建物の約15年におよぶ変化(落書きが描かれて消されて……)をリミックスして、一つの木彫に表現する新作を発表予定。ストリートビューで見つけたアメリカ・L.A.のグラフィティを作品化したら、偶然、そのライターとSNSでつながってメッセージが届き、結果的に日本まで葭村さんに会いに来たというエピソードも教えてくれた。何気なく描いたものが遠く離れた国で木彫作品に転じていると知ったら、そりゃ驚くだろうな。

文中でも触れた、千鳥文化の個展のために制作した作品(中央)。今でもなるべくマッキーで適当に描いたような落書きをモチーフに選ぶという。

ストリートビューで見つけた落書きを作品化したシリーズ。梱包箱に印字されているのは、その絵を見つけた位置情報。

葭村太一 Yoshimura Taichi
1986年兵庫県生まれ。場所の痕跡や記憶を彫刻に落とし込む作品を制作。8月末から始まる「六甲ミーツ・アート」では、六甲山に合わせた作品を発表予定。

『「ART OSAKA 2024」 Expanded Section』
期間:7月18日(木)~22日(月)
場所:クリエイティブセンター大阪(名村造船所大阪工場跡地)
※近隣の[kagoo]でも開催。同時開催のGalleries Sectionは大阪市中央公会堂にて

店舗情報
大阪・北加賀屋
クリエイティブセンター大阪(名村造船所大阪工場跡地)
  • 住所
    大阪市住之江区北加賀屋4-1-55
  • 営業時間
    11:00~19:00(7/18は14:00~、7/22は~17:00)
  • 入場料
    1,500円
  • アクセス
    大阪メトロ北加賀屋駅から徒歩10分
※この記事は2024年8月号からの転載です。記事に掲載されている情報 (価格、営業時間、定休日など) は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。
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SAVVY1月号『よしもと漫才劇場となんば』
発売日 2024年11月22日(金)定 価 900円(税込)