今月、スパイされる人 岩崎むつみ さん
テーマは、“ふらふらせずに生きたいけれど” な 3冊
☑1. 『山梔』
著/野溝七生子 筑摩書房(ちくま文庫) 1,320円
☑2. 『現代生活独習ノート』
著/津村記久子 講談社 1,815円
☑3. 『孤独と不安のレッスン』
著/鴻上尚史 大和書房(だいわ文庫) 814円
これでいいのかな? と迷う一人ぼっちの自分のために
この春から新生活が始まり、どこか心が浮き立ったり、一方で理由もなくふさぎ込んでしまったり。普段から読書にのめり込むタイプではないという岩崎さんが本を手に取ったのは、そんなタイミング。
1冊目はちょっと昔の小説。姫路出身、1897年生まれの作家・野溝七生子の自伝的な要素も多く含まれた少女小説だ。「実家が兵庫県ということもあり、親戚に本をもらったんです。去年ちょうど新しく文庫化されたらしくて。表紙のクチナシの花もすてきでめっちゃかわいい!」と岩崎さん。著者の自伝的小説でもあり、母や姉妹への愛情、暴力を振るう厳格な父親への葛藤など、家父長制に縛られる重苦しい暮らしの中で、活字や海外の神話、美しい物へのあこがれが多感な少女の目線で描かれる。「いろいろもがきながらも一人、自分の好きなものを貫こうとする主人公から目が離せません。主人公の阿字子(あじこ)って名前もかわいくて好き」
2冊目は、打って変わって8編収録の短編集。「冷蔵庫内のテリトリー争いみたいな話とか、みすぼらしい食事をInstagramに上げる話とか、特に事件も動きもない設定なんですけど面白い。何気ない暮らしの中で、何かにあきらめたり、怒ったりすることも含めて『人生ってこんなもんだよな、でもそれも含めて面白いよな』という気持ちになり、思いもかけずポジティブな心持ちになれる瞬間がいっぱいでした」
3冊目は、人生相談などでもおなじみの劇作家・鴻上尚史が、多過ぎる情報や肥大する自意識のもと、気付かないうちに傷つきやすくなっている現代の人々におくるアドバイス集。「新生活で見知らぬ土地に行くことになって、正直不安も多いんですが、この本で『一人になることが今は必要なのかもしれない』と思えました。でも、どうしてもつらいときの関係性の構築方法なども書いてあって、肩の荷が下りるような気持ちになります」
新しい生活に向き合うとき、さりげなく心に寄り添ってくれる3冊でした。