神戸・元町四丁目の本屋[本の栞]を営む、則松栞さんの日々のブックマーク
VOL.9
飲みながら人と話したことなんて
いつもほとんど覚えていない
text and photo
則松 栞(のりまつ しおり)
神戸で[本の栞]という本屋をやっています。
11月2日(木)に笹久保 伸さんのライブ開催が決定しました!
個人的にもとても楽しみです。
詳細は店のInstagram・HPから。
9.8 fri.
もう9月! 8月が一瞬で終わってしまった。[本の栞]は9月で3周年です。ありがとうございます。4年目もどうぞよろしく。まったく早いものですね。
今日は山内弘太さん 1 とTokiyo Ootoさん 2 に来ていただき、店の周年を祝うイベント。二組とも、私はただただファンとしてライブを見た。対角に設置されたlistude 3 のスピーカーの中心で演奏を聴いていると、どこか、こことはちがう場所にいるような気分になる。
顔見知りばかりのなか、ライブがはじまるすこし前にお店に迷い込んできたサラリーマンの二人組がいた。どうやら飲める場所だと思って入ってきたらしい(二人ともソフトドリンクを頼んでいたけれど)。正直なところすこしばかり不安に思っていたのだけど、終了後、弘太さんの演奏に対して「マチュピチュみたいなかんじがした」と謎の感想を明るく述べていて、かなり最高だった。意味、わからんけど、なんかわかる気がする。Tokiyoさんへは「あの箱(エフェクターのこと)で音を変えているの?」「その場で!?」と感心していて、なんともいい光景が生まれてしまった……としみじみ。ここに場があって良かった。来てくれてありがとうサラリーマンのおじさん方、これからもつづけてゆけそうです。
9.13 wed.
ざざっと雨が降って止んで、外に出ると甘い匂いがした。なんだろう? 金木犀のような、そうでないような。微かに秋が来ている。なんか外国の匂いみたいだ。なにかを忘れている気がする。ずっと焦燥感がある。季節の変わり目だから?
[箱根本箱] 4 へ泊まりに行ったら、山本精一さん 5 の『ギンガ』 6 を見つけた。ここにあるとなんだかちぐはぐなかんじだな、と思いながら手に取る。どうやらハナレグミの人が選書した一冊らしい。精一さんの音楽は大好きで、[ミングル] 7 などに何度かライブを観に行っているがいまだに話したことはない。私の得意な上っ面だけのおしゃべりなんかはかんたんに見透かされてしまうような気がして、なんだかすこし怖いのだ。
人間、正直なのは大変良いことだ。ウソつきよりも優れているかもしれない。けれども、感じたままに、そのまま、何にも包まないで、ストレートに、他人にコトバを投げつける人間を〈正直者〉と呼ぶのは間違いだ。そういう人間のことは〈無神経〉というのだ。
読み終えて、精一さんがいつかのライブのMCで、無秩序な一人喋りを展開していたことをふと思い出した。地方にライブをしにいくと、ボアダムスの人ですよね、などと話しかけられるので、そうですよ、サインしましょうか、と言ってヤマツカアイ 8 と書く、とか。今度のライブではすこしお話することができたらいいな、と思う。
結局、本は一冊だけ、『センセイの鞄』 9 を買って帰った。とても好きな小説。
9.15 fri.
旅から帰り、家でしばらく休憩して、それから[高田屋] 10 へ行った。昨日久しぶりに読んだ『センセイの鞄』に出てくる飲み屋がとてもいい雰囲気で季節の食べ物もおいしそうで、そこに近いかんじの店として思いついたのが[高田屋]だったのだ。箱根に比べると神戸はとても蒸し暑くて、赤星を一人でぐいぐい飲んだ。今日はマカロニサラダ、山芋たんざく、セロリとイカの炒めもの。隣の人が言っていた「人間関係の極北って恋愛やもんなあ」という台詞が忘れられない。そうかも。
それほど酔ってはいないはずがよろよろとした足取りで[高田屋]を出て、映画館帰りの友人と会う。あれ、もう酔ってるの。赤星の大瓶、飲んだからかな。大瓶をひとりで?
我々にしては久しぶりだったので、会っていなかったあいだを埋めるように話しつづける。最近した旅のこと、観た映画のこと、読んだ本のこと、行ってみたい場所のこと。飲みながら人と話したことなんていつもほとんど覚えていなくて、どういう目をしていたとか、どんな仕草で頷いたかとか、そんなことばかりをよく覚えている。
- 電話番号080-3855-6606
- 住所神戸市中央区元町通4-6-26 元村ビル1F北
- 営業時間12:00~19:00
- 定休日水・木&不定
- カード使用可