神戸・元町四丁目の本屋[本の栞]を営む、則松栞さんの日々のブックマーク
VOL.12
小さな光を捉えて暮らす人
text and photo
則松 栞(のりまつ しおり)
あけましておめでとうございます。神戸の書店[本の栞]の栞です。
今年の目標は、変化のないことを愛す、です。よろしくお願いいたします。
12.7 thu.
12月と一緒に、冬が来た。オレンジと紫色が淡く混ざり合っていて、濃い紺色の雲がかかっていた。誰かに見せようと写真に撮ってみたけれど、全然うまくうつらなかった。
一つ一つの人生が違うように、その人生の意味内容も違うのだが、それでもなお、わずかかもしれない人生の共通分母みたいなものを信じていたいとぼくは思っているし、その共通部分が見い出せないとしたら、なんと、生きているということは空しいものだろう。(『牛腸茂雄 写真展“生きている”ということの証』)
「牛腸茂雄展」 1 に行った。写真は当然よかったけれど、日記や、姉とやり取りした手紙など、ささやかな文章が印象に残った。
[カラピンチャ] 2 のチキンカレー、古い喫茶店のうすっぺらなホットケーキ、魂のぬけた古本屋、まだ早い時間の[高田屋]。
12.21 thu.
岐阜の祖母の家で目が覚めて、二度寝しようかともおもったが結局眠れずに起きた。祖母の家の毛布はものすごく重い。なにかに乗っかられているみたい。いまのアパートに住むようになって、よりいっそう祖母の家が居心地よく感じられるようになった。光のよく入る、ほんとうにいい家。いつかは住みたい。手紙とお菓子と鯛のかまぼこを置いてくれていたので、置き手紙をして出る。
ひとまわり季節をねむる上着からこぼれて落ちる銀紙の星
暮れまぎれ好きになったらひとすじの星はまばゆい尾を曳いて降る
帰りの在来線で『夜を着こなせたなら』 3 を読み終えた。雪をかむった山とか、金色のすすき野原とか、なにもない、がらんとした駅のホーム越しに見た。川は夕暮れに光っていた。東に流れる大きな川を見ていたら、反対側で落ちていく西陽が車窓に反射して、コマ送りの映像みたいで、視界がぱちぱちとした。一瞬、光が満ちて、それから淡くなっていき、時間の感覚もよくわからないまま、ついさっきまでは遠くにいたのに、気が付けば神戸だった。
12.30 sat.
アラームなしでいつもと同じような時間に起きる。洗濯機だけまわして、また布団にもどり、枕元にほってあった『カンバセイション・ピース』 4 を読む。淡々と生活が流れてゆく。欄間と入れ墨の話のところまで読み、つぎは、さっき棚の上に積んであるなかから拾ってきた『神様のいる街』 5 を開く。部屋の端にあるはずの洗濯機の揺れがここまで伝わってきている。もしかして、隣にいる? なんだかまた眠くなってきた。
「愛するっていうのはそういうことだ」と私は言った。「愛っていうのは、比較検討して選び出すものじゃなくて、偶然が絶対化することなんだよ。誰だって、親から偶然生まれてきて、その親を一番と思うようになってるんだから、それが一番正しい愛のあり方なんだよ」
「愛なんかどうでもいいですけど、せっかくなんだから、どっか一つぐらい花火に行きましょうよ」
『ハッピーアワー』 6 を一緒に観に行く予定だった友人と連絡がつかず、まあ、一人で行くか、と思ったらとっくのとうに満席だった。いよいよむしゃくしゃしてきて、一旦うなだれる。仕方ない、じゃあヴェンダースのあたらしいのでも、と思って調べて、タイトルで笑ってしまった。
『PERFECT DAYS』 7 、ほんとうにすばらしくて、ずっとつづいてほしいとおもった。主人公は常に朗らかでいて、小さな光にもその都度、愛おしげに目を細めていた。彼はただ、そうあろうと努めている人なのだ。そういう人もいる。自分のまわりの好きな人たちと、その暮らしを重ねながら観た。それからもいろいろなことが起きる散々な一日だったが、まあ、それすらも、と思えるような気がした。
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