神戸・元町四丁目の本屋[本の栞]を営む、則松栞さんの日々のブックマーク
VOL.14
花束を抱えて歩くとき、それは動物のようになる
text and photo
則松 栞(のりまつ しおり)
神戸の書店[本の栞]、次回イベントは
3月27日(水)[古本屋弐拾dB]の藤井
基二さんと世田谷ピンポンズさんによる
「凡夜READING CLUB」です。
2.23 fri.
つくったZINEをみてください、と続けてやってきた二人の男女が、ほとんどおなじ外見をしていた。おかっぱに眼鏡。双子みたいな他人どうし。どちらのZINEもいい感じだったので、取り扱わせてもらうことにした。
「ぼくはあなたがすきだ。とてもまっすぐな話しかたをする」
(関根 愛『やさしいせかい』) 1
ちょっとした外出と思って喫茶店に行き、
ちょっとした散歩と思って駅まで歩いたら、
電車にのって、乗り換えをして、映画をみてた土曜。
(垂井 真『たとえそれが最後だったとしても』) 2
今日は歌人の山階 基さん 3 と、山階さんの著書『夜を着こなせたなら』 4 の装画を描いていて、ミュージシャンでもある高山燦基さん 5 の出版記念トークとライブ。高山さんの即興演奏にあわせて山階さんに朗読をしてもらったのが、ヒリヒリとした空気ですごく良かっ た。お客さんで来てくれていた知人の日記帳に、三人それぞれの日記を書かせてもらった。
映画監督の杉田協士さん 6 も来てくれていた。ひっそりと、演奏中にカメラを構えるわたしの姿を撮られていて、終わってから見せてくれた。ひとはカメラを構えているとき、無防備だからよいのだという。そういえば、一昨日、下北沢でライブをみたあとに外に出て佇んでいたら、見知らぬ外国人がケータイの画面をみせながら話しかけてきた。道でも聞かれるのかしら、わたし、英語、話せないけど、と思っていたら、いい感じの風景だったから撮ったのだというようなことを言いながら、わたしがぼんやりと煙草をくわえている 姿の写真をみせられた。あの写真ももらっておけばよかった。
2.28 wed.
「付き合ってるひとたちは、すごい」「どういうところが? なんでそうおもうの?」 喫茶店で聞こえてきた会話。ごく普通の、はたちぐらいの女の子ふたりなのに、やけに質問が鋭いぞ、と思い、ちらりと見てしまった。聞かれた女の子が、それになんと答えていたかは忘れた。
上映開始ぎりぎりの[元町映画館]にすべりこんで、『彼方のうた』 7 をみた。朗らかだけど寂しげで、あたたかいのに嘘っぽくて、主人公のはるさんの目は水面みたいに透き通っているのに空っぽのようにみえて(でもそういえば川の水面を見ているときって穏やかさと 同時に底知れない不安もわいてくる)、どうしてこんなに不穏、というか、死のような空気がずっとあるのかな、とおもいながら観ていて、ああ、そっか喪失をうつしているからか、と映画が終えた瞬間におもった。欠けたひとたちが集まって欠けたところを補いあうとか、そういうんでなく、それぞれのそこを取り出して眺める、みたいな映画だった。
映画館を出て、近くの喫茶店 8 に入った。なんの変哲もない、古くてうす暗い喫茶店だけど、窓が大きいから、入り口の席がとても明るくて気持ちいい。まえの道路を車が通るたびにちらちらと店内に光が反射する。ホットカルピス(レモン入り)をたのんで、パンフレットをめくった。今目の前で起きていることは「本当だ」とおもえる瞬間だけを映画にしている、というようなことが書いてあって、このあいだ杉田さんと山階さんと話したことを思い返した。わたしは、わたしたちは、スクリーンにうつるところ以外も存在していると、そうおもえるような映画がすきだ。
今日もまた遅くまで飲んでしまった。街で飲んだ帰りはよく、家まで50分ほどかけてとぼとぼ歩いて帰っていて、わたしはその時間がけっこう好きなのだ。もうすぐ家につく。うすい灯りがみえている。
- 電話番号080-3855-6606
- 住所神戸市中央区元町通4-6-26 元村ビル1F北
- 営業時間12:00~19:00
- 定休日水・木&不定
- カード使用可