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今月、スパイされる人 泉 茅和 さん

会社勤めをしながら、週末はボランティアや趣味の刺しゅう作品作りに勤しむ30代。

テーマは“興味と関心の感度を高める” 3冊

☑1. 『君のクイズ』


(著)小川 哲 朝日新聞出版 1,540円

☑2. 『どもる体』


(著)伊藤亜紗 医学書院 2,200円

☑3. 『はじめから国宝、なんてないのだ。』


(著)小林泰三 光文社 1,760円

視点を変えて、どきどきやわくわくに出合える3冊

 1冊目については、「小川さんの小説『ゲームの王国』(2019年、早川書房)が面白かったので『同じ著者だし、なんとなくタイトルも似てるし』なんて思って読んでみたら、内容は全然違ったのでびっくり。でも面白くて一気に読めました」と泉さん。先に読んでいたという『ゲームの王国』は革命期のカンボジアを舞台にした大河小説だが、本書は現代のテレビの生放送クイズ番組で起こる摩訶不思議なミステリー。「主人公はクイズの回答者です。番組の決勝戦の相手が、問題が一言も読まれないうちに正しい答えを回答したことに疑問を持ち、決勝戦をじっくりと振り返っていく……という思考型のミステリーなのですが、その思考を追っていく過程がスリリングで快感でした。直木賞&山田風太郎賞をW受賞したという『地図と拳』もなぜかスルーしていたので、こちらも読んでみよう、と今からわくわくしています」

 2冊目は医学書院のシリーズ「ケアをひらく」より。「吃音の知人がいて、理解を深めてみたいと思って」と手に取ったそう。「何かしゃべろうとしたとき、最初の言葉を繰り返してしまうのが吃音=“どもり”ですが、歌ったり、別の人物になりきって演技をしたりするときは吃音が出にくい、という点に着目して、“どもる”ということのメカニズムを考えていくところが面白かったです。身体的なリズムなどの観点から発話するという動作を考えると、『そもそも自分はどうやって話しているんだろう』と不思議な気分に。しゃべるという行為自体を俯瞰して考えるきっかけになりました」

  「美術関連は疎いけど、知人が面白いよ、と貸してくれて」という3冊目は、国宝をはじめとする日本美術の作品を、デジタル復元して制作時の色彩に再現し、新たな視点での鑑賞を提案する本。「復元された鮮やかな阿修羅像やド派手な絵画を見ると、当時の人が作品を初めて見たときに感じただろう高揚を自分も共有できた気持ちになります」
 テーマや素材は違えど、新しい視点がフレッシュな気付きを生む3冊でした。

※この記事は2024年5月号からの転載です。記事に掲載されている情報は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認ください。
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SAVVY1月号『よしもと漫才劇場となんば』
発売日 2024年11月22日(金)定 価 900円(税込)