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このアーティスト、要チェック! 今月のNEWSな人

取材・文/竹内 厚 写真/田中陽介

文化村クリエイション vol.5
展覧会『伊庭靖子の見かた、描き方』

期間:3月5日(火)~24日(日)
場所:なら歴史芸術文化村

眼でものを見る。見えない質感を描きだす。


 2年前に奈良・天理にオープンし、意欲的なアートプログラムを展開する[なら歴史芸術文化村]で、12月から公開制作中の伊庭靖子さんを訪ねた。見ることの意味を問いかけるような静かな作風で知られる作家が、公開制作!? 
「やっぱり抵抗はありますよ。といっても制作現場を秘密にしたいわけではなくて、ただすごく恥ずかしいんです。けど、お尻を叩いてもらわないと新しいことが始められない怠惰な性格ですから、いい機会かなって」
 例えば、ふわっとしたクッションやつややかな陶器など、身近な物を題材に具象絵画を展開してきた作家だが、そうしたモチーフ選択に意味はなく、質感やまとう空気感に関心があるだけとも繰り返し発言してきた。が、今回は奈良の地を実際に取材し
てから制作に臨んだ。これも珍しい話。
「今まで描き方の挑戦は結構やってきましたけど、特定の場所や期間でモチーフを探してそれを描くというのは初めてかもしれない。ただ、どの作品もまだ未完成なのでこの先どうなるか……意味が強く見えはじめたら、それを消す方向に直してしまうかも。ある程度計算をしながら手を動かして、これはまずいと感じたらどうしても自分のできる方向に戻してしまうので」
 東京都美術館での個展では、初の映像作品をいきなり発表して周囲を驚かせた作家。そうは言いながらも、節目ごとの挑戦には事欠かないのだ。近年は広々とした風景をまず版画で、ついで油彩でも描き始めた。
「赤外線フィルターを通してみると色はなくなり、例えば木々の緑は白く光ったように捉えられます。そのうえで改めて自分で色を入れていくんです。そうすると風景でも全体が一つのまとまった質に収まる感じがして、このやり方なら自分もやれそうだなって」
 そもそも伊庭さんは、自身で撮った写真をベースに描いてきた。そこに赤外線フィルターまで加わって、より客観的に、なるべく情緒を排除して制作に挑んでいるようにも感じられる。
「自分の感情や感覚、思い、趣味とかがすごくつまらなく感じたという学生の頃のトラウマがあって、それをいかに排除して作品化するかというところでやってきましたから。人間の眼っていろんな感情や思いと共にものを見てしまうところもあるので、それを取り払いたくて。けど、そうやっても、どこかで自分の思いというのは入り込んでくるので、これくらいでちょうどいいバランスになるかなと思ってもいます」
 いろんな挑戦を伴った公開制作の行方。その成果は3月に展示される。

公開制作期間に展示されていた、風景を描いた近年の作品。伊庭靖子「Untitled 2023-05」

天理図書館やミサンザイ古墳、奈良ホテルなどに取材しての公開制作。微妙に色を違えた絵の具なども興味深い。

※公開制作は終了しています

伊庭靖子 Iba Yasuko
1967年京都市生まれ。2009年に神奈川県立近代美術館、2019年に東京都美術館で個展を開催。国内外の美術館に作品が所蔵されている。

文化村クリエイション vol.5
展覧会『伊庭靖子の見かた、描き方』

期間:3月5日(火)~24日(日)
場所:なら歴史芸術文化村

店舗情報
奈良・天理
なら歴史芸術文化村
  • 住所
    奈良県天理市杣之内町437-3
  • 営業時間
    9:00~17:00
  • 定休日
  • 料金
    入場無料
  • アクセス
    各線天理駅から有料シャトルバスあり
※この記事は2024年4月号からの転載です。記事に掲載されている店舗情報 (価格、営業時間、定休日など) は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。
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