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〈Interview〉田中 彰孝(劇団四季) 
悩んで、もがいて、対峙して 人ならざる者を生きるために

 細田守監督の大ヒットアニメーション映画をミュージカル化した劇団四季の『バケモノの子』が12月10日(日)、大阪四季劇場で開幕します。腕自慢の強い粗暴者、だけど心根は純粋で優しいバケモノの熊徹(くまてつ)を演じる田中彰孝さんが、作品の魅力をたっぷりと語ってくれました。

あらゆる技術を駆使して
異世界を暗転なしで表現

編集部(以下 編)ミュージカル『バケモノの子』の見どころを教えてください。
田中彰孝(以下 田) まず、このアニメーションをどう舞台化するの?と思われると思いますが、一つは盆と呼ばれる回転舞台を二重にすることで、バケモノ界の渋天街と東京の渋谷を瞬時に行き来するよう表現しています。あとは半円状の紗幕に映した映像と俳優のリアルな動きをタイミングよく合わせるなどして、目まぐるしく場面を変えています。アナログとデジタルを駆使して、二つの世界を暗転なしで切り替えるようになっています。
編 武闘シーンもありますね。
田 擬闘(格闘の演技)は専門家である栗原直樹さんにご指導いただきましたが、栗原さんは何よりも「お芝居を、ちゃんと生きろ」と。 テクニックと動きでダンスのようにはやらないでほしいと、かなり厳しく指導してもらいました。また、相手役が変わると間合いも変わるので、東京公演中も毎日、上演前に擬闘の稽古をしていました。
編 オーディションで勝ち取った熊徹役は、演じられていかがですか?
田 オーディションに受かるまでは「自分は熊徹だ」と信じていたのですが、稽古が始まるにつれ、本当に熊徹になれているのだろうかと不安と葛藤が出てきて。それは東京公演が開幕してもありました。
編 なぜ、そうなったのでしょう。
田 僕の声はテノールになるのですが、この声だと説得力がないなどと思ってしまって。何よりアニメーションでは(熊徹の声は)役所広司さんですから。「このひと言でこうも表現できるのか」と、憧れですよね。同じようにする必要はないと分かっていても、割り切って考えられるまでに時間がかかりました。

浅利慶太の金言を胸に刻み
自分を透明にして役を生きる

田 劇団四季に入団して、演出の浅利慶太先生にも「役を生きるんだ」と叩き込まれました。「透明になって、役だけが歩くんだ」と。劇団四季のポスターには俳優の名前は載っていません。熊徹役も九太役も名前がなく、作品のタイトルとスタッフクレジットだけがあります。でもそこに僕は引かれていて。だからこそ、透明になるために自分を研ぎ澄ましていく。熊徹は自分の魂を全開にしているような役なので、なおさら意識しましたね。
編 ちなみに、公演中はどの段階で熊徹のスイッチが入るのでしょうか。
田 ある意味、スイッチは入れないようにしているかもしれません。というのも、東京公演で無理やりスイッチを入れていたところもあったので……。僕は「次はこのシーンだ!」と構えがちなのですが、熊徹っておそらくそういうことは考えていないですよね。どんなに悪い方向に行くと分かっていても、着飾ったり、色をつけたりすることができない。そういうところもかっこいい、すごい男だなと思います。僕は俳優であるけれども、熊徹を演じているときは熊徹だと。そうやって徐々にはらが座るかどうかを大事にするようになったのですが、そしたら声もよく出るようになりました。
編 この作品は、親と子という関係や師弟関係も描いています。田中さんも、誰かに教えながらも自分も成長したというご経験はありますか?
田 今がまさにその通りです。そういった意味では、熊徹を地でいっていると思います。なんというか、自分のことしか考えてこなかった人生だなと。もちろん、みんなで作品を作り上げるという意識はありますが、どうやったら自分はうまくなれるのか、もっともっともっと!とやってきて。でもコロナ禍になり、それではうまくいかないことに気付いて、行き詰まった感覚がありました。まず、自分自身が幸せじゃなかった。今は過剰に自分に課している状況を把握して、「そうしなくていいんだよ」という情報を整理しながら、少しずつ自分を理解しているような状態です。ただ、貪欲な部分もないと、長年同じ役(シンバ)を演じ続けることは難しかったのではないかとも思いますね。
編 ロングラン公演をする劇団四季ならではですが、一つの役を10年以上続ける生活というのは、想像できないですね。
田 特殊な人生です。

人との距離感は大阪みたい、
住むなら絶対、渋天街!

編 渋谷とバケモノ界の渋天街、住民になるならどちらを選びますか?
田 絶対、渋天街です。僕、渋天街みたいなところで育ってきたので。ああいう商いが盛んなバケモノの世界よりももっと田舎で自然の多いところでしたが。
編 渋天街のどこがいいですか?
田 人間の関係の近さです。僕はその距離感の方が合いますし、渋天街のバケモノたちの気質などは大阪に近いような気がします。大阪公演のお客様がこの作品をどう感じてくださるのか、反応も楽しみです。

 自分にとことん向き合いながらも透明になり、研ぎ澄まして作り込んだ熊徹。早く劇場で会いたい!

Profile
田中 彰孝(劇団四季)
たなかあきたか
福岡県直方市出身。2003年に劇団四季の研究所に入所。『ライオンキング』で初舞台を踏み、のちにシンバ役を16年半にわたって演じる。ほか、『ノートルダムの鐘』のカジモド役、『マンマ・ミーア!』スカイ役、『恋におちたシェイクスピア』ウィリアム・シェイクスピア(ウィル)役など多くの作品に出演。

『バケモノの子』
12月10日(日)〜2024年5月25日(土)
@大阪四季劇場

脚本に高橋知伽江、演出に青木 豪を迎え、劇団四季オリジナルミュージカルとして2022年4月に東京で初演。バケモノの熊徹と孤独な人間の少年・蓮(九太)が紡ぐ、血のつながりを超えた“親子”の絆。やがて17歳の青年に成長する九太。それぞれに自分自身と向き合う日々の中で、ある事件をきっかけに二人は大きな決断を下す……。

写真/阿部章仁

会場/大阪市北区梅田2-22-2 ハービスPLAZA ENT 7F
原作/細田 守(映画「バケモノの子」)
脚本・歌詞/高橋知伽江 演出/青木 豪
料金/S席 12,000円〜、A席 9,500円〜
   B席 7,500円〜、C席 4,500円〜
HP/www.shiki.jp/applause/bakemono/
問い合わせ/0570-008-110(劇団四季ナビダイヤル)

写真/中部里保 取材・文/岩本和子

※この記事は、20243年1月号からの転載です。

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