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秋の奈良といえばの恒例展覧会、食わず嫌いの人も多いかも? 2022年から本展の担当を務める三田研究員のアツい解説と共に、その魅力をご紹介!

Q正倉院って?
756年、聖武天皇の四十九日にあわせて、天皇遺愛の品々を光明皇后が大仏に献納したのが始まり。「今から1000年以上も前の時点で、国家の珍宝を誰にも手を付けさせず日本文化の粋として永久に残すと決めた光明皇后の英断がすごい。しかも、城壁に囲まれたような場所ではなく、人々の生活の近くで木造の蔵に納められた宝物が約1300年守られてきたこと。これも世界に誇るべきことなんですよ」

Q『正倉院展』って?
1946年から初回が開かれ、今年でなんと第75回を迎える。「戦後すぐのまだ社会が荒廃していた時代、精神的な復興のためにも自国の素晴らしい文化に目を向けるという趣旨で始まりました。展示構成などは奈良国立博物館の工芸部門で手掛けており、私は2022年度から担当になりました。意欲的に新たな挑戦をいろいろやってるところです」

Q『正倉院展』、なんで人気?
コロナ禍前までは大行列必至。現在は日時指定の前売予約制に。北・中・南倉、また聖護蔵の中に約9000件ある宝物のうち、出陳は毎年60件程度。宮内庁正倉院事務所が選定し、同じ宝物が10~20年は出陳されないのも人気の理由だ。「連続して出陳しないのは保存の観点が大きいのですが、お経のような所蔵件数の多いものは順に公開されています。あとは、近年の研究の成果をお伝えする展覧会でもあります」

Q2023年のミドコロ
毎年、同じ展覧会タイトルで続けられているが、出陳される宝物は毎年異なり、展示構成の章立てなども違っている。「私たちとしては、より若い人たちにも見てほしいという意識があって、ポスターのデザインから、展示会場の解説パネルもより分かりやすくポップに、けれど内容は薄めずに。個人的な推しをいうなら『九条刺納樹皮色袈裟』です。見た目には地味なものだけど、ただの“宝”じゃないですから」

Q正倉院の宝物が稀少なワケは?
日本の皇室が長年続き、崇敬を集めてきたからこそ、1300年にわたって維持されてきた正倉院。「何がすごいって木や絹といった有機物の宝物が残っていることです。海外にも古い染織品はありますけど、基本的に砂漠地帯から出土したもの。日本のような高温多湿の土地では放っておけば長くもちません。人から人の手に大事に伝えられてきたのが、正倉院の宝物なんです」

奈良国立博物館 工芸考古室主任 研究員・ 三田覚之さんに聞きました!                                                            

聖武天皇象徴する、
正倉院宝物の総代のような宝物です!

九条刺納樹皮色袈裟(くじょうしのうじゅひしょくのけさ) 【北倉1】

前回出陳/1999年 W253cm×H147cm

正倉院の宝物を記した目録『国家珍宝帳』の筆頭に記載された、聖武天皇のお袈裟。「聖武天皇は歴代天皇のなかで初めて出家した、きわめて仏教への信仰があつい天皇で、その象徴とも言える宝物です。糞掃衣(ふんぞうえ)というボロきれで作る袈裟の伝統にならったもので、この宝物は褐色に染めた絹をわざわざほぐして作られています」

織物や木製品、
紙といった有機物の宝物が残っているのがすごい!

鳥草夾纈屛風(とりくさきょうけちのびょうぶ) その1・その2 【北倉44】

前回出陳/[L:その1]1990年[R:その2]2010年 [L]H149.0×W54.0cm [R]H148.7×W56.0cm

屏風の一部にあたるもので、それぞれ異なる表現で草花と尾長鳥を大きく表している。図柄を彫った板で裂地を挟んで染めるのが「夾纈(きょうけち)」と呼ばれる技法で、裂地を二つ折りにして染めるため、左右対称の模様になっているのが分かる。

正倉院古文書正集(しょうそういんこもんじょせいしゅう) 第七巻
(少僧都良弁牒(しょうそうずろうべんちょう)、
法師道鏡牒(ほうしどうきょうちょうほか)ほか)
 【中倉15】

前回出陳/2010年

堂々たる「良弁」の署名も見ることができる古文書集。9通の文書を継いで1巻としている。ちなみに良弁とは、東大寺を開山して初代別当を務めた僧で、今年が没後1250年の年にあたる。展覧会と同時期に良弁僧正坐像の特別拝観も予定されている。

中国の最新モードが日本に入ってきた
歴史の特異点ならではの宝物です。

平螺鈿背円鏡(へいらでんはいのえんきょう) 【南倉70】

前回出陳/2009年 直径39.3cm×縁厚0.9cm/5410g

ヤコウガイと琥珀で花紋様を表すだけでなく、その周りの地の部分までよく見れば、細かく砕いたトルコ石がびっしりと散りばめられている。中国の唐で作られたと推定される大型の美しき円鏡。「日本が中国の文化に積極的に学んだ時期って実は数少なくて、この円鏡にはそんな時代の特別なきらめきが感じられます」

刻彫梧桐金銀絵花形合子(こくちょうごとうきんぎんえのはながたごうす) 【南倉36】

前回出陳/2005年 長径31.9×短径18.8cm、H11.5cm

一木をくりぬいて作ったというのも信じられないほど、唐草模様の宝相華を透かし彫りで立体的に表した、ふた付きの容器。「鑑真和上が建てた戒壇(僧侶になる誓いを立てる場所)を経て正倉院に伝わった宝物で、当時の中国の最新モードでデザインされています。中国と日本の文化交流が盛んであったことが分かりますね」

楓蘇芳染螺鈿槽琵琶(かえですおうぞめらでんのそうのびわ) 【南倉101】

前回出陳/2004年 H97.0cm 最大幅40.5cm

ばちで弦を弾く部分に動物の皮を貼り、さらにそこに絵画を描いた捍撥絵(かんばちえ・下)の見られる琵琶。たいまい(べっ甲)や白い貝殻をはめ込んで、唐草模様や鳥、雲を表した背面(上)の装飾も美しい。「浄土の世界では楽器が宙に浮いて、誰も弾いてないのに妙なる音が鳴ってるような描写がありますけど、まさに天上世界の音色を視覚的にも表現したような楽器で、素晴らしい美意識だなと思います」

楓蘇芳染螺鈿槽琵琶 部分(かえですおうぞめらでんのそうのびわ ぶぶん)【南倉101】

前回出陳/2004年 H97.0cm 最大幅40.5cm

捍撥絵として描かれたのは、白象の上で楽器を弾いて舞い踊る人々の姿。盛唐期の絵画様式を濃厚に伝えている。

小さな亀さんには中国の壮大な
宇宙観が表れています。

青斑石鼈合子(せいはんせきのべつごう) 【中倉50】

前回出陳/2010年 W15.0cm×H3.5cm

蛇紋岩をスッポンの形に彫り出した合子。写実的な甲羅には、金と銀とで北斗七星が反転した形で描かれている。「天はドーム状であるとした、天円地方(てんえんちほう)という古代中国の宇宙観からすれば、このスッポンは宇宙の象徴ですね。だから、この15㎝ほどの小さな亀を手にしたものは宇宙の外から我々の宇宙を眺めることになる。それで北斗七星もひっくり返ってるというわけです」

最新の研究成果で伝えたい!現在進行形の正倉院。

漆六角厨子基趾椊(うるしろっかくのずしのきしほぞ) 【中倉204】

初出陳 現存部の復元高155cm、屋根復元幅220cm、框幅164cm、柱高131cm

正倉院では毎年の研究成果を紀要にて発表(HP:https://shosoin.kunaicho.go.jp/)、そうした最新の研究成果を伝える宝物も出陳される。こちらは、その形状が明らかになってきた屋根付き厨子(仏像などを安置する扉付きの仏具)の部材。「研究や復元作業など、正倉院は今も常に止まってないんです。地味に見えるかもしれないけど、正倉院が継続して活動していることも知ってもらえたらうれしいですね」


奈良国立博物館『第75回 正倉院展』
10月28日(土)〜11月13日(月)

※観覧には事前予約制の「日時指定券」(販売枚数限りあり)の購入が必要。(当日各時間枠開始時刻まで販売)
※奈良国立博物館観覧券売場での販売はなし。
店舗情報
奈良国立博物館
  • 電話番号
    050-5542-8600(ハローダイヤル)
  • 住所
    8:00〜18:00(金・土・日・祝〜20:00)※共に入館は閉館の60分前まで 
  • 定休日
    会期中無休
  • 料金
    観覧料2,000円
  • アクセス
    近鉄奈良駅から徒歩15分

※この記事は2023年12月号からの転載です。記事に掲載されている店舗情報 (価格、営業時間、定休日など) は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。

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