見る前に知りたい!アート深掘り話
文/岡山 拓
『幕末土佐の天才絵師 絵金』
期間:4月22日(土)~6月18日(日)※会期中展示替えあり
場所:あべのハルカス美術館
ジョジョ立ちならぬ絵金立ち
「見得を切る」とは、歌舞伎役者が舞台で決めポーズをとること。謎の絵師、絵金の描いた芝居絵屏風は、二曲一隻という正方形に近い画面にすっくと立ち、芝居の場面を再現している。醸し出される不自然さは、コミックス『ジョジョの奇妙な冒険』のキャラクターたちのポージング、通称「ジョジョ立ち」と同じだ。どちらも物語を下敷きとして、魅せる絵として成立しているところも共通点。ただ、絵金の特筆すべき点は、スプラッターと言っていい血の表現などの残酷性だ。子どものころにお祭りで見てトラウマになった人もいるらしい。エロとグロ、アンダーグラウンドな魅力で70年代にブームとなり、西武百貨店での絵金展のポスターは横尾忠則がデザインしていた。
謎の絵師と書いたが、江戸時代末期、土佐の髪結の家に生まれ、画才を認められ御用絵師を輩出する狩野派に入門したことは分かっている。江戸での本格修業を経て土佐藩の絵師として働くが、33歳の時に贋作(がんさく)事件に巻き込まれ、ご城下を追放、町絵師となる。そして、芝居絵屏風というジャンルで独自の様式を確立し、多くの弟子を育てた。内容は浮世絵とかぶる部分が多いが、版画ではなく、肉筆画でサイズも大きい。大画面を得意とする狩野派の筆使いを存分に生かし、水銀を使った赤など最新の絵の具を使い、極彩色の迫力の画面を描く。これらの屏風の依頼人は、街に暮らす庶民で、神社などの夏祭りのために奉納された。公民館や集落が管理する屏風も少なくなく、美術品としてよりもお祭りのための屏風で「絵金さん」と親しみを持って呼ばれている。夏祭りでは、商店街でちょうちん、ろうそくで照らされ、妖しさがマックスの公開となる。絵馬台と呼ばれるステージを組み上げる地域もあって、もはや江戸から続く高知の夏フェスと言っていい。そのお宝が半世紀ぶりに土佐から出て、私たちの目の前に。土佐の夏フェス『土佐赤岡絵金祭り』の予習編として押さえておくべきだろう。
- 電話番号06-4399-9050
- 住所大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス16F
- 営業時間10:00~20:00(月・土・日・祝~18:00)※最終入館は共に閉館30分前まで
- 定休日4/24、5/8・22
- 料金入館料1,600円
- アクセス各線天王寺駅から徒歩すぐ
※この記事は2023年6月号からの転載です。記事に掲載されている情報は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認下さい。