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アフロ・ブラジリアン・ソウルの最進化型

シェニア・フランサ/ブラジル

文/吉本秀純

広大なブラジルの中でも北東部に位置するバイーア州は、アフリカから伝わってきた文化や宗教の影響が強いのが特徴的。音楽においても、アフリカに起源を持つ民間信仰のカンドンブレのリズムなどが根付き、サンバの源流もこの地域にあるとされています。シェニア・フランサもバイーア出身の女性シンガーで、2017年に発表したデビュー作『XENIA』では、ネオソウル、トラップ、新世代ジャズなどを高度に昇華した上にアフロ・ブラジルらしい打楽器を多用した鮮烈なサウンドで、高い評価を獲得。プロデュースには、ソロになる前からのバンド仲間であるピポ・ペゴラーロと、現代アフロ・ブラジリアン・ジャズの旗手であるロウレンソ・ヘベッチスが関わり、音のミックスをD’Angelo(ディアンジェロ)の傑作『Voodoo』などを手がけたラッセル・エレヴァードが担当した点でも、ブラジル産ネオソウルの新たな頂点を鉄壁の布陣で示した作品でした。

そんな彼女の待望の新作『Em Nome da Estrela』は、前作で確立したスタイルを踏襲しつつも、よりスケールの大きさと美しさを増したメロディと歌声、フューチャリスティックな感覚を強めた斬新な音作りによって、さらなる進化を遂げた驚きの仕上がり。プロデュースは前作と同様にピポとロウレンソが担当しているのですが、もはや“ネオソウル風”などといった形容では説明し切れない境地へと達しています。また、未来的なフィールを強く放つ一方で、後半では近年に世界的な再評価の気運を高めてきた自国のレジェンド=アルトゥール・ヴェロカイの流麗なストリングス・アレンジをフィーチャーしたり、ジルベルト・ジルやジャヴァンらの大物の楽曲を取り上げるなど、先達への敬愛に満ちている点も大きなポイント。ブラジル音楽の過去と未来を彼女にしかできないスタイルで接続し、解き放つことに成功しています。

まさに、言葉通りの意味で“ブラジリアン・フューチャー・ソウル”と呼びうる会心作を、ぜひお聴き逃しなく!

『Em Nome da Estrela』
XENIA FRANÇA

*Think! Records
発売中 2,530円

※この記事は2023年5月号からの転載です。記事に掲載されている情報は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認下さい。

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