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ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。

カヌレの次は、大徳寺納豆?

 鯖寿司、豆餅、黒七味、千枚漬け、麩饅頭、いり番茶、白味噌……。

 京都の街には、〝ならでは〟の外せない食べものがあるけれど、大徳寺納豆(辛納豆とも呼ばれる)も、そのひとつ。大豆に麹などを混ぜ発酵させた保存食で、ねばねばの納豆とは違い、糸は引かず、色は黒褐色。味噌っぽく強烈な匂いで、味はだいぶ塩辛い。その昔、唐から伝わり、京都では大徳寺にて一休禅師が作りかたを教え残したと言われている。日本酒のあてにする人もいるけれど、我が家では麻婆豆腐に欠かせない調味料。もう10年以上も欠かさず常備している。

 ちょうど半年ぐらい前のこと。京都の某ワインバーで〆の焼きそばをオーダーしたら、なんと刻んだ大徳寺納豆が麺に絡んでいた。パンチのある塩けが食欲をそそる。おいしすぎる。思わず「私、大徳寺納豆に目がないんです」と厨房に話しかけると、京都には大徳寺納豆の作り手がいくつかある、とシェフから耳寄り情報。いわく、それぞれ味わいや粒のかたさが違い、コーヒーっぽいのもあれば、フルーティなものもあるらしい。なぬう! それはぜひとも自分の舌で確かめねば。さっそく北へ南へ、辛納豆を買い求め、食べ比べを決行した。

左から大徳寺[瑞峯院]の唐納豆(1箱1,000円)、[大徳寺一久]の大徳寺納豆(100g入り900円)、[一休寺(酬恩庵)]の一休寺納豆(100g入り900円)。いずれも毎夏、手作業で仕込みや天日干しが行われる。

 まずは、麻婆豆腐に愛用してきた[大徳寺一久]。大徳寺の門前で何代も続いている老舗で、お寺さんから許可を賜り、大徳寺納豆を名乗ることができる唯一の作り手だと女将さん。一子相伝のレシピを受け継いだこの店の辛納豆は、粒が大きく、八丁味噌のような香り。もちっとした弾力の粒を噛むと、力強い塩けと、パッションフルーツみたいな酸味がぶわっと口のなかで炸裂する。

[大徳寺一久]では精進料理も提供(要予約)。

 続いて、一休禅師が晩年を過ごした京田辺市の[一休寺(酬恩庵)]で作られている、一休寺納豆。蒸した大豆にはったい粉と麹を混ぜて発酵させたあと、1年近く天日干しするという辛納豆は、匂いがまろやか。噛み締めると、梅干しに近い酸味。一休寺ではソフトクリームにトッピングして提供していたけれど、たしかにスイーツとも相性がよさそう。 

[一休寺(酬恩庵)]の名物、一休寺納豆のソフトクリーム。

 最後に、一休禅師ゆかりの大徳寺にある[瑞峯院]の唐納豆。毎年夏に仕込みをしたものを、9月上旬から受付で販売している。匂いも味も、ぶっちぎりの個性的。味噌っぽさに潜む、糸引き納豆風味。柔らかく、ねったりした粒を噛むと、どこかチョコレートっぽい。へえ、ほう、とひとり唸りながら、三者三様のおいしさを実感したのだった。

 その数日後のこと。今度は京都の某ピザレストランで、大徳寺納豆とナスのピザに遭遇して歓喜。もしかして京都の辛納豆、来年あたりカヌレに続くトレンドになっちゃうんじゃないの⁉と密かに私は心躍らせている。

著者

Nihei Aya

エッセイスト。9年のN.Y.滞在を経て、2021年にあこがれの京都へ。近著に『ニューヨークおいしいものだけ』(筑摩書房)、『ニューヨークでしたい100のこと』(自由国民社)。7月にエッセイ本『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』(大和書房)を刊行。

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※最新話(vol.15)は、SAVVY3月号(1/23発売)に掲載予定。過去記事は、ハッシュタグ #仁平綾の京都暮らし をクリック。ぜひチェックしてみてくださいね。

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