ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。
湯船が真ん中、富士山の絵がない!
子どものころ実家近くに銭湯があり、祖母にせがんでよく連れていってもらった。富士山のペンキ絵がどどーんと描かれた天井高のある風呂場に、プール並みの巨大な四角い湯船。日常にはないスケール感に、心はしゃいだものである。
そんな昭和の銭湯を体感できる場所が、京都市内にまだまだ残っていると聞き、懐かしむ気持ちで出掛けてみた。湯気で曇るガラス戸に手をかけ、いざ脱衣所から浴場へ。わくわく足を踏み入れて、え! 絶句。ふ、富士山の絵がない! しかも突き当たり奥にあるはずの湯船が、なぜか風呂場の中ほどにこぢんまりと設けられ、プール感なし。むむむ!

どうなってるんだ、京都の銭湯。と鼻息荒く、いくつか足を運び判明したのは、やはり壁に富士山の絵はないこと。そして、風呂場の真ん中や、男湯と女湯の仕切り壁に湯船が設置されていること。私が慣れ親しんだ関東の銭湯とはずいぶん違う。その訳を探るべく、1928年創業の[源湯]と、サウナの聖地としても名高い[白山湯高辻店]で話を聞いた。
まず、なぜ富士山のペンキ絵が京都にないのか? 「そもそも富士山への意識がない」([白山湯高辻店]横山重典社長)、「たぶん京都の人は富士山を思うことが少ない」([源湯]中村勇貴店長)。なんと! 衝撃である。富士山って、全日本人の原風景じゃないの?「距離が遠い。京都なら大文字やね」と横山社長。そうなのですね〜。
では、湯船が中央にあるのはどうして? 横山社長の推測では「中央に湯船、周りがずらっと洗い場だとあったかい。それに京都の銭湯は間口が狭いから(仕切り壁に浴槽を設けるしかなかった)」。京都の底冷えと狭小物件ゆえ、なるほど! また、中村店長からは、先に体を洗って湯船に入る関東に対し、掛け湯だけして湯船に入ることが多く(現在は体を洗って入ることを推奨)、しかも、湯船から直接お湯をすくう、関西の〝掛け湯文化〟が風呂場のレイアウトに関係しているのでは、との説も。東と西でなぜか異なる入浴作法、面白いなあ。
ほかにも、京都ではロッカーに収まる四角い脱衣かごを使う(かごごと移動すれば脱衣所の好きな場所で脱ぎ着できる。合理的!)、サウナが無料(呉服屋などで働く、風呂なし住まいの奉公人や職人が多く、銭湯の需要が高かった京都。各銭湯が切磋琢磨した結果、設備やサービスが充実した、と横山社長談)、ケロリンのおけが浅い(掛け湯文化のため。関東は逆におけが深い)など、〝京都流〟がいろいろあるらしい。そしてなにより、私が京都の銭湯で感動したのが、水質だった。湯船に浸かると、肌に触れるお湯の〝あたり〟が柔らかい。温泉? と錯覚するほど気持ちがいいのだ。それもそのはず、京都の銭湯のほとんどが地下からくみ上げた水を使用。だし、豆腐、和菓子、お茶といった、この街の文化を影で支える地下水が、こんなところでも活躍しているとは。京都の銭湯は単なる〝街のお風呂屋さん〟にあらず。風土や歴史に育まれた、京都の〝文化〟なのである。


- 電話番号080-3832-4126
- 住所京都市上京区北町580-6
- 営業時間14:00〜翌1:00
- 定休日火
- 料金入浴料550円
- カード不可
- アクセスJR円町駅から徒歩15分
- 電話番号075-351-3648
- 住所京都市下京区舟屋町665
- 営業時間15:00〜24:00(日7:00〜)
- 定休日土
- 料金入浴料550円
- カード不可
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Nihei Aya
エッセイスト。9年のニューヨーク滞在を経て、2021年に京都へ。著書に『ニューヨークおいしいものだけ』(筑摩書房)、『ニューヨークでしたい100のこと』(自由国民社)、『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』(だいわ文庫)、京都のエッセイ&ガイド本『京都はこわくない』(大和書房)など。2025年8月にカフェ&グローサリー[ROBYN]を京都にオープン。 Instagram@nipeko55
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