ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。
ある日インスタで見かけ、「きもかわいい!」と一目ぼれして買いに走った、京都の書店[誠光社]の「本かぶり人形」。肌の白い、ふくふくとした赤子が、その名のとおり本をかぶって、しゃがんでいる姿の土人形で、聞けば、京都の「御所人形」がルーツだという。ん、御所人形? なにそれ? さっそく調べたら、宮廷の公家や大名家などの高貴な人たちに愛玩された人形だとか(きもかわいい、なんて言ってすみません……)。真っ白で艶のある肌と、三頭身で肉づきのよい体が特徴で、かつて参勤交代で西国の大名が京都を通過した際には、献上した品々の返礼品にも活用され、〝お土産人形〟とも呼ばれたらしい。へー!

気になるぞ、御所人形。と鼻息荒めの私に、「[郷土玩具 平田]に行けばなにか分かるかも」と[誠光社]の店主、堀部篤史さんより耳寄り情報。ならばと東寺のすぐそば、全国各地の郷土玩具を扱う[郷土玩具 平田]へ向かった。

店内は人形の博物館さながら。先代が蒐集した張子人形や土人形が棚にぎゅうぎゅう並ぶなかに、ありました、御所人形。本かぶり人形と同じく真っ白い肌、大きな丸い頭をした子どもの姿。よく見ると、右手と左手、それぞれになにやらピンク色の物体を握りしめている。何を持ってるんでしょう?と店主の平田恵子さんに尋ねれば「饅頭(まんじゅう)食い人形と同じやね」とのこと。ま、饅頭食い人形!? なんですか、それは!?

いわく、京都の伏見人形のひとつで、ふたつに割った饅頭を手に持つ子どもの立ち姿を人形にしたもの。父と母のどちらが好きか?と問われた子どもが、饅頭をふたつに割って、どちらがおいしいかと聞き返し、両親への優劣ない愛情を表現したという逸話が元になっているとか。だから京都では昔から、子どもが聡明に育ちますようにとの願いを込め、饅頭食い人形が飾られたり、贈られたりしてきたそう。なるほど〜。食いしん坊を礼賛する人形かと思った……。







ちなみに伏見人形は、伏見稲荷大社の門前で、参拝者へのお土産として売られてきた土人形の総称。御所人形とは対照的に庶民向け。全国各地に郷土玩具として伝わる土人形の元祖とも言われている。ふむふむ、棚を凝視する私に、「伏見人形といえば、ちょろけんもおもしろい」と平田さんから、またもや謎ワード。ちょろけんとはっ? 興奮する私に、出してくださったのは、1.5頭身ほどの人形たち。帽子をかぶった猿、お多福、ひょっとこみたいに口を尖(とが)らせるおじさん(?)など、どれも愛嬌(あいきょう)ほとばしる。なんでも江戸〜明治時代、頭に大きな被りものをし、三味線や太鼓を奏で、お正月に家々をまわった大道芸人「ちょろけん」を表現したものだとか。京都にそんな風習があったとは〜。と、感心していると、今度は平田さん「そういえば友引人形というのもあって……」と、さらなる伏見人形を繰り出してくる。むむむ!!京都の人形、謎かわすぎる!


- 電話番号075-681-5896
- 住所京都市南区東寺東門前町89
- 営業時間11:00〜16:00
- 定休日水・木
- カード使用不可
- アクセス近鉄東寺駅から徒歩10分

Nihei Aya
エッセイスト。9年のニューヨーク滞在を経て、2021年に京都へ。著書に『ニューヨークおいしいものだけ』(筑摩書房)、『ニューヨークでしたい100のこと』(自由国民社)、『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』(だいわ文庫)、京都のエッセイ&ガイド本『京都はこわくない』(大和書房)など。8月にカフェ&グローサリー[ROBYN]を京都にオープン。
- Instagram@nipeko55
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