神戸・元町四丁目の本屋[本の栞]を営む、田邉栞さんの日々のブックマーク
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vol.31
「双子座同士だからかもしれない」
7.4 fri.
今日は早じまいで、kanekoayanoのライブへ。[オリックス劇場]はひさしぶりだなと思っていたら、最後のMCで「ここでやるのはコロナ禍ぶりで」と話していた。そのときのライブは、今はもう会っていない友人と一緒に、ひとつあいだを空けた席で観て、涙がとめどなく出て、帰り道、もう別れかけていた当時の恋人に思わず電話をかけたことをおぼえている。
今日のライブでは、なぜだか分からないが「腹がちぎれるほどに笑えた」という歌詞で喉のあたりがキューっとなった。最近のわたしは、そういう場面のことをいちばん尊く思っているのかもしれない。
電車の行きしなと開演を待つ時間で、中島とう子さんの日記ZINE『這々の体で、愛について』を読み終えた。
個人的すぎて何の参考にもならないと思われるかもしれませんが、普遍的なことというのは、いつでももっとも個人的な言葉の中にあるとわたしは信じています。
「たくさん良い本を読んで、忘れていた良いこととか思い出せると良いね」(共に中島とう子『這々の体で、愛について』)
帰り道、乗り換えの駅から20分ほど家まで歩く。暑いけれど、電車を待つ面倒さプラス神鉄の値段の高さを天秤(てんびん)にかけると、歩く方がまだましだった。もしかするとパートナーにばったり会うかもしれないな、今日は目立つ色のワンピースを着ているし、とそんなふうに、遠目に見つけて電話をかけてくる様子を考えるでもなくなんとなく頭に浮かべていたら、ほんとうに電話が鳴った。パートナーとは時々そういうことがある。双子座同士だからかもしれない。
[オリックス劇場]=旧大阪厚生年金会館をリノベーションした大阪市西区の劇場・コンサートホール。
『這々の体で、愛について』=著者がパートナーと別れた後の1年2カ月の日々をつづった日記ZINE。
7.12 sat.
開店すぐから来客が続く日。今日の新刊をチェックしようとしたら使っているサイトのサーバーが落ちているようで、昼過ぎにはその日するべき作業が終わってしまった。せっかく時間が出来たのでなにか読もうかなと思い、気になっていた犬川 蒔さんの『アフター・アフター・アワーズ』を手に取る。最近読んだ日記ZINEにつづけて登場している[OH MY BOOKS!]が、またもや出てきた。呼ばれている気がする。この本では、著者がChat GPTに日記を送り、それを読んだGPTとの会話も掲載されているのだが、そのなかで「結局AIはまだ決まったような感想しか言えないってことね」というやりとりがあった。でも、人間もわりと変わらないかもしれないな、と思う。誰かを励ましたり共感をあらわしたりするとき、結局はいつも同じような、それらしい言葉ばかりをつい使ってしまう。
わたしはなぜだか「翻訳」の言葉に強烈に惹かれた。初めてその言葉を知ったような気分だった。いつものようにわたしの身体や心に起こったことを言葉にする行為も一種の翻訳なのではないか、そんなささやかなひらめきのようなものが頭の中ではじけた。わたしは文章を書くのが好きというより、自分の感情を言葉を通して翻訳する行為が好きなんだ、とはじめて気づく。それはカラフルな喜びに満ちた発見に思えて仕方がなかった。
孤独に慣れたい。孤独なくして自己愛はないし、自己愛なくして他者への愛もないことは頭ではちゃんとわかっている。(共に犬川 蒔『アフター・アフター・アワーズ』)
[OH MY BOOKS!]=2023年、東京・渋谷で開店した書店。雑貨や古着を交えながら古本・新刊を取り扱う。
Chat GPT=対話形式で回答を行う生成AIの一種。
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※この記事は2025年10月号からの転載です。記事に掲載されている店舗情報 (価格、営業時間、定休日など) は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。