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ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。

vol.42 黒染めという救世主

 春がきた! ダウンを仕舞い、うきうき、トレンチコートに袖を通したら、え……生地が変色している……。なんとか救済したくたどり着いたのが、京都の〝黒染め〟だった。黒染めとは、冠婚葬祭で着用される黒紋付(紋入りの黒い着物)を染色する技法。老舗の[京都紋付]には洋服を黒く染め替えるサービスがあると知り、さっそく訪ねたのだった。

 古くは平安時代から、染色が行われてきた京都。[京都紋付]が創業した大正時代になると、それまでの草木染めから、合成染料による染色へシフト。生地を色よく大量に染められるようになったこと、黒紋付が正式な礼服に認定され、嫁入り道具の定番になったことが重なって、黒紋付のニーズが急増したという。やがて[京都紋付]をはじめ染屋がより深い黒色を開発、評判を呼び、黒紋付は京都の専売特許状態に。かつての[京都紋付]では月の売上が1億円(!)だったこともあるとか。ところが洋装の普及で、売上は下降の一途。伝統が失われる危機感から、培った技術を応用した洋服の黒染めを数年前から手掛けているそうだ。ブランドや百貨店とのコラボ企画やアイテムもあり、再び黒染めが脚光を浴びている。

 では、いざ工場へ。洋服を黒染めする工程を特別に見学させてもらった。工場には、私のように変色やシミで黒染めを希望する人や、黒に〝染め変〟して楽しみたい人からの衣類が届く。驚いたのは、黒い服の依頼が何枚もあること。すでに黒いのに黒染め? と不思議がる私に、「色あせたり、くたびれたりした黒が、黒染めでよみがえるんです」と染色を担う林 修一朗さん。なるほど、そういう手もあるのか!

 まずは25㎏の衣類を一度に染められる大きな染色機に、衣類と染料、水を投入。ちなみに水は湧き出る地下水を使用。これも黒染めが〝京都ならでは〟なゆえんのひとつで、軟水の地下水によりムラなく染まるのだそう。「ほかの水やときれいに染まらへん」と社長の荒川 徹さん。へぇ!

 60度で一時間ほど回したら、すすぎ、洗剤による洗浄、脱水、陰干しを経て、一次染めが完了。後日、黒をより黒くする、[京都紋付]が誇る〝深黒加工〟(光の反射を抑え、マットな漆黒に見せる企業秘密の技!)を施せば完成だ。

 染め替わった愛用のトレンチは、なんとモードな黒いコートに大変身。染まらずに残った化学繊維のステッチがアクセントになり、新たな一着を手に入れたかのようだ。うれしい!

 一方で、和服の反物は需要がぐっと減り、月に一度依頼があるかどうか。職人が減り、後継者もいないと聞いて、寂しく、やるせない気持ちに。たしかに今は、黒紋付を身につける機会がないし……との私の嘆きに、「礼服だけじゃなく、どう着てもいい。派手な帯を締めて、明るい色の襟にすれば、パーティーでも着られますよ」と荒川さん。え! ブラックドレスみたいに楽しめるんですか!? がぜん興味が湧いて、いつか私も黒紋付を、とのあこがれが止まらない。

工場にて、まずは染料を水で溶かす。

染色機へ衣類を投入。

トートバッグも黒染め可。

染色、洗浄から……


脱水機へ。

一次染めを終えたコート。天然素材のボタンも黒に染まった!

陰干し後、深黒加工を経て完成。

[before]

[after]

染められるのは綿や麻、ウールなどの天然繊維。黒染めにより、手触りがしなやかになるほか、はっ水効果も。色落ちの心配ナシ、洗濯OK。詳細&依頼はHPから。直接持ち込みも可(9〜18時、土・日休)。Tシャツ2,970円~、ロングコート10,780円~。納期は1カ月ほど。

店舗情報
京都・丹波口
京都紋付
  • 電話番号
    075-315-2961
  • 住所
    京都市中京区壬生松原町51-1
  • 営業時間
    9:00〜17:00
  • 定休日
    土・日・祝
  • カード使用
  • 公式HP
    https://www.k-rewear.jp/ ※オーダーは、HPから申し込みの上、持ち込み、もしくは、宅配で。
  • アクセス
    JR丹波口駅から徒歩10分
この記事は2025年7月号からの転載です。記事に掲載されている店舗情報 (価格、営業時間、定休日など) は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。
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