神戸・元町四丁目の本屋[本の栞]を営む、田邉栞さんの日々のブックマーク
vol.29
「断片的な日々の記憶」
4.30 wed.
『IT’S NOT ME イッツ・ノット・ミー』を[元町映画館]で観てから、写真の現像や気になっている靴の試着、銀行の入金などこまごました用事を済ませる。どうしてもパフェが食べたくなり、ひとりで[ベニマン]へ。意外とひとりでも許される空間で、店員さんもあたたかく、居心地良く過ごす。隣のテーブルにすばらしい光がさしていたのでこっそりと席をうつった。フルーツパフェを食べる。友人とメールでやり取り、「8文字で好きなもの、フルーツパーラー」「休みの日の朝」「7文字で好きなもの、鱚の天ぷら」「川沿いの道」「6文字で好きなもの、いちごのパフェ」。
[元町映画館]=ドキュメンタリーや旧作の発掘にも意欲的な元町商店街のミニシアター。
[ベニマン]=大正時代に果物店としてスタートした元町の老舗フルーツショップ&パーラー。
5.6 tue.
大雨の音。10時すぎまでこんこんと眠ってしまった。こんこんと眠る、ってなんかいい響きの言葉だなと思って調べたら、英語では“sleep like a rock”と表現するらしい。これまた良い。石のように眠る。言葉は良いがしかし繰り返しみていた夢はパートナーと喧嘩(けんか)する夢。とくに不満はないので多分単に疲れていたんだろう。
5.10 sat.
お客さんがレジに持ってきた2冊の本がほとんどまったく同じ色で、同じ色だな、と思いつつも、わざわざ話しかけるほどのことでもないかと黙って会計をしていた。すると、袋に入れる直前にお客さんがはっとしたような顔で、まったく同じ本が2冊かと思うぐらいに同じ色ですね、いま気がつきました、と言ってくれた。自分から言えば良かったといううっすらとした後悔と、同じ思考回路だったことへのうっすらとしたうれしさ。お客さんは今日はいい日だ、と言って帰って行った。おおむね同じ気持ちです。ちなみにその2冊は『恋愛の哲学』と 『日記の練習』 。
『日記の練習』=詩作やエッセー、絵本の制作などでも人気を集めるくどうれいんが、一年をかけて生活と思考をつづった日記集。NHK出版。
5.18 sun.
常連さんから、さっき水道筋の本屋で買った本に[本の栞]のレシートが挟まっていたんです! と見せてもらい、しばし盛り上がる。2020年9月の印字になっていて、あるお店の名刺も挟まっていたので多分あの人かな、と心当たり。開店したばかりのころに古本で売ったものだった。それも中島らもの本だったので、おそらく元をたどれば自分が私物として持っていたものだろう。小さな範囲で巡り巡ってまた会うことになるとは。
5.21 wed.
二度寝から起きてメモを開いたら「旅館の卵焼きウォッチャー、虫と戦う」とメモがあった。夢の内容のことなのだろうがまったく覚えていない。書いたことすら覚えていない。
5.24 sat.
『ギター・マガジン』を読んでいるパートナーの横で『セックス・ソバキュリアン』を読み終える。おそらく途中途中でなにかしらの出来事が起きていて、でもそれはとくには描写されずに著者の心情だけが変化しているのと、ドラマチックな終わりではないのに心持ちははっきりとしたということが伝わるのが、日記だな、現実だ、という感じがしてとても良かった。
ただひとつ言えるのは毎日を記録する行為は自分を助けるということです。(『セックス・ソバキュリアン』若鮎ひかり)
※【連載】栞の栞の過去記事は、ハッシュタグ #栞の栞 をクリック。
information
7月19日(土)・20日(日)は「ふたばZINEフェス」(神戸・長田)、7月19日(土)~21日(月・祝)は「HDC神戸・本と珈琲と椅子」(神戸・神戸ハーバーランド)に出店いたします。ぜひお越しください。
- 電話番号080-3855-6606
- 住所神戸市中央区元町通4-6-26 元村ビル1F北
- 営業時間12:00~19:00
- 定休日水・木&不定
- カード使用可
※この記事は2025年8月号からの転載です。記事に掲載されている店舗情報 (価格、営業時間、定休日など) は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。