ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。
vol.41 ニューバードを探せ!
ニューバードというパンに初めて遭遇したのは、[まるき製パン所]だった。コッペパンサイズの揚げパンで、商品説明には〝カレー味の生地に厚切りのハム〟とある。おお!揚げパン=給食=思い出の味=好き!鼻息荒く購入し、待ちきれずかぶりついたら、揚げパン特有の油がじゅわっと口の中へ浸透したあと、懐かしいカレー香がふわん。うんまい〜。飲むように秒で完食してしまった。
それにしても、なぜ〝ニューバード〟なんだろう。カレー揚げドッグや、揚げカレーロールのほうがしっくりくるのに……。調べたところ、かつて[西湖堂]という京都の製パン会社が、各地に展開したチェーン店〝バード〟で販売したパンらしい(だから名前がニューバード)。真相を創業78年の老舗[まるき製パン所]に聞いてみたところ、「その昔、京都パン協同組合でご当地パンを作ろうとなり、[西湖堂]の社長が提案したのがニューバードだったようです」と、三代目の木元陽介さんが教えてくれた。当時、組合の一員だった木元さんの祖父(初代)も提案に乗り、ニューバードを作って売ったのではないかとのこと。その後、製パン会社は閉業。ご当地パンとして定着したニューバードは残り、今もいくつかの店で作り続けられているそうだ。
レアな地元パン、ニューバードを探せ!というわけで、パン屋巡りに繰り出した。そのひとつが東寺近くに店を構える[ルパンベーカーズ]。1984年の創業時から販売するニューバードは、[まるき製パン所]とは異なり、パン生地は白く、中にカレー粉をまとわせたウインナー入り。店主の辻邦彦さんが、創業前に修業した店で作られていたものを参考にしたそう。ドーナツ生地を使用した、さくっと軽めの食感で、歯応えのあるあらびきウインナーとの対比が楽しい。
もう一軒は、辻さんの修業先である嵐山の[ぴいたあパンベーカーズ 車折店]。45年近く前の開店当初から店頭に並ぶニューバードは、食感がふかっとふくよか。カレー粉とウインナーがぴたりと調和する優しい味わいだ。店主の松芝幸雄さんに聞いたところ、こちらも自身の店を立ち上げる前に修業した別のパン店のレシピが基になっているとか。なるほど、ニューバードはそうやって作り手に受け継がれながら、それぞれの個性を広げ、人気を獲得していった地元パンなのだなあ。
ちなみに、京都のご当地パンがほかにあるか尋ねたところ、「京都だけかはわからないけれど、サンライスも売ってます」と木元さん。え! サンライス!? 関東人の私には初耳。いわく、丸いパンにビスケット生地をかぶせ焼いたもの。そ、それは……メロンパンじゃないですか! 衝撃は続く。なんと[ルパンベーカーズ]と[ぴいたあパンベーカーズ 車折店]では、サンライスに加え、〝メロンパン〟も販売。といっても、なぜか形は楕円で、白あん(!)入り。サンライ〝ズ〟ではなく〝ス〟なのも謎だし、発祥も諸説アリ。こちらも引き続き調査していきたい。
- 電話番号075-821-9683
- 住所京都市下京区松原通堀川西入ル
- 営業時間6:30〜20:00(日・祝〜14:00)
- 定休日月
- カード使用不可
- アクセス阪急大宮駅から徒歩5分
- 電話番号075-691-8166
- 住所京都市南区唐橋経田町35-2
- 営業時間7:00〜19:00
- 定休日火
- カード使用不可
- アクセス市バス「唐戸町」バス停からすぐ
- 電話番号075-861-2466
- 住所京都市右京区嵯峨中又町24-16
- 営業時間7:00〜19:00
- 定休日不定
- カード使用不可
- アクセス嵐電車折神社駅から徒歩すぐ

Nihei Aya
エッセイスト。9年のニューヨーク滞在を経て、2021年に京都へ。著書に『ニューヨークおいしいものだけ』(筑摩書房)、『ニューヨークでしたい100のこと』(自由国民社)、『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』(だいわ文庫)、京都のエッセイ&ガイド本『京都はこわくない』(大和書房)など。
- Instagram@nipeko55