ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。
vol.39 おため、してる?
「京都では、ちょっとしたお返しの品を“おため”って言うんですよ」
知人からそう聞いて、おため……? 思わず聞き返した。“おかめ”や“おたま”じゃなく……“おため”。初耳である。
調べてみたら、京都では結婚などのお祝い時に、ご祝儀の一割ほどを返礼する習わしがあり、それを“おため”と呼ぶらしい。返礼時に使う半紙や懐紙のお多芽(ため)紙が語源だとか。知人いわく、京都では結婚式当日ではなく、大安友引の吉日に前もって家を訪ね、ご祝儀を手渡すのが昔からの慣例。その場で“おため”が返されるそうだ。披露宴にご祝儀を持参し、お返しに引き出物をもらうだけではないんだなあ。
そんな“おため”が、なぜか日常生活でも引き継がれ、“ちょっとしたお礼”を指す言葉として残っているのだという。たとえば近所の人にお裾分けをもらったり、知人から旅行のお土産を渡されたりしたら、その場でさっと“おため”を返すのが京都人のマナーだそう。そ、その場で!驚くべき反射神経である。お返しはまた今度〜、じゃだめなの? というか京都の人は、日頃から“秘技、おため返し”の準備をしているの?
答えはイエス。「実家のパントリーの半分が“おため”です」と話すのは、代々京都に暮らす別の知人。300円から500円ぐらいまでの日持ちするお菓子を常備し、誰かに何かをもらったら、ストックしてある“おため”で即時対応するらしい。すごい……。ちなみに買いだめた“おため”は、賞味期限切れを起こすこともしばしば。定期的に棚卸しをして、期限間近のものは家のおやつとなり、家族の胃袋に無事おさまるという。しかし、そこまで必死に“おため”を用意して備えるなんて、京都の人はよほど貸し借りをつくるのが嫌なのだろうか……。「頻繁に会えない人には借りを残しておきたくないから」とか「まわりの人とは対等でいたい気持ちがある」などの理由を聞くと、なるほど、“おため”からは京都人の律儀さや謙虚さがうかがえる。その気質はぜひ見習いたいところだけれど、「“おため”ラリーは終わりがなく永遠に続く」とも聞いて、怖い……。“おため”はデスマッチなのか……。
50代以上の昭和世代にいまだ根強く支持されている“おため”、若い人からはわずらわしいと敬遠されているらしい。そりゃそうだ。物を贈り合う間柄は、挨拶を交わすだけの関係や、SNSでの気楽な交流から、一歩踏み込んだもの。正直、面倒くさかったりもする。でも、「感謝の気持ちを伝えたい、おいしいものをお裾分けしたい心のあらわれが、本来のおため」と聞けば、廃れてしまうのはやはりもったいない。というわけで、さっそく自分の“推し食べもの”を買い集め、お返しに備える私。京都の“おため”文化を実践しようと意気込んでいるので、誰か私に何かください〜。
私ならこんな“おため”を返したい!
(むしろ返されたい!)
マイベストおためを選んでみました。
- 電話番号075-495-4685
- 住所京都市北区大宮南椿原町8-1
- 営業時間10:00〜18:00(イートイン〜16:30LO)
- 定休日日
- カード使用可
- 公式HP
- アクセス市バス「上賀茂御薗橋」バス停から徒歩5分
- 電話番号075-722-0451
- 住所京都市左京区下鴨北園町10-6
- 営業時間10:00〜21:00
- 定休日なし
- カード使用可
- 公式HP
- アクセス地下鉄北山駅から徒歩10分
- 電話番号075-441-1122
- 住所京都市上京区室町通一条上ル小島町558
- 営業時間10:00〜18:00
- 定休日日
- カード使用可
- 公式HP
- アクセス地下鉄今出川駅から徒歩6分
- 電話番号075-708-2917
- 住所京都市下京区烏丸通七条下ル東塩小路町721-1 京都タワーサンド1F
- 営業時間10:00〜21:00
- 定休日不定
- カード使用可
- 公式HP
- アクセス各線京都駅から徒歩すぐ
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Nihei Aya
エッセイスト。9年のニューヨーク滞在を経て、2021年に京都へ。著書に『ニューヨークおいしいものだけ』、『ニューヨークでしたい100のこと』、『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』など。2024年4月に京都のエッセイ&ガイド本『京都はこわくない』を刊行。
- Instagram@nipeko55