ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。
vol.38 亀山に挑む!
とある甘味処で、“亀山”というメニューが目に飛び込み、ん? となった。なにそれ。食べたことない。添えられた写真は、粒あんと餅。説明書きには“汁気のないぜんざい”とある。え、だったら、ぜんざいじゃないの?
実は関東と関西では、おしることぜんざいの立ち位置が違うらしい。関東のおしるこは、こしあんの汁に餅。粒あんの汁の場合は、田舎しるこ。ところが関西では、おしることいえばこしあんで、粒あんの汁はぜんざいと呼ぶそうだ。ちょっと待って。関東のぜんざいは、汁気のないあんこ(こしあん、粒あん両方あり)に餅である。どうやらそれを関西では、亀山と呼ぶのだとか。うーん、ややこしい……。それにしても、なぜ亀山と呼ぶのだろう。どこかの亀山さんが発明したのだろうか?
「丹波産の大納言小豆の産地を、昔は亀山と呼んだからとか、おわんに盛られた見た目が亀の甲羅みたいだからとか言われています。でも詳しいことはわかりません」。そう話すのは、清水寺近くの二寧坂で大正3年から商いを続ける甘味処、[かさぎ屋]の当代、北川さん夫妻。
おしるこ、ぜんざいなど、代々受け継がれた店のレシピはほぼ創業当時のままで、たとえば亀山は、注文が入ってから炭火で餅を焼き、かまどで3時間ほど炊いた大納言小豆をどっさり載せる。おわんのふたをぱかっと開けると、餅の姿は目視できず、一面、小豆の赤。掘っても掘っても小豆。食べきれないかも……と不安になるも、ほっこり炊かれた小豆は、きりっとした甘みでしつこさがなく、ぺろりと完食してしまう。もう関東のぜんざいには戻れない〜と心で叫ぶおいしさだ。
ところで亀山は、いつから親しまれている甘味なのか。「大掃除をしたら出てきた」という、[かさぎ屋]の昔のメニューを見せてもらったところ、「亀山 十五銭」の文字。昭和初期のものと仮定すると、もう100年近く続くロングセラーである。へぇー、きっと京都人にはなじみ深い甘味なのね、と思ったら、知らない人がほとんどで、「一部の小豆好きが頼むメニュー」だそう。見た目のインパクトからSNSで広く知れ渡ったのは、ここ数年のことなのだとか。
発祥不明、ネーミングも諸説あり(もし私なら、“大納言”って名付けるけどなぁ……)、謎に満ちた亀山。なんだかふに落ちず、図書館へ向かい文献を漁ってみた。すると、丹波国亀岡城の城主であった明智光秀が、城の近くで産出される丹波大納言小豆を好み、煮て塩味で賞味していた、との説を発見。ちょうど裏山に、亀山と小倉山が並んでいたため、小豆を煮たものを小倉と名付け、餅を入れたものを亀山と名付けた(!)とか*。なんと、まさかの戦国時代生まれ、明智光秀による命名。亀山、ただものではなかった!
- 電話番号075-561-9562
- 住所京都市東山区高台寺桝屋町349
- 営業時間10:00〜17:10LO
- 定休日火
- カード使用不可
- 席数18
- アクセス京阪清水五条駅から徒歩20分
Nihei Aya
エッセイスト。9年のN.Y.滞在を経て、2021年に京都へ。著書に『ニューヨークおいしいものだけ』、『ニューヨークでしたい100のこと』、『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』など。4月に京都のエッセイ&ガイド本『京都はこわくない』を刊行。
- Instagram@nipeko55