ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。
ありがとう、デヴィッド・ボウイ。
日本のいいところ、いいものを、外国人によって再発見させられる。そういうことって、結構ある。
例えば、日本語の「IKIGAI(生きがい)」。ニューヨークに住んでいたとき、現地の出版社で働く友人から聞いたのだけれど、〝生きるための意味や目的を得る〟という言葉のコンセプトがすばらしいのだとか。欧米圏ではベストセラーの本も存在するらしい。
ニューヨークで熱烈支持されている日本の食べものもあった。その一つが、「Mochi Ice Cream」。餅で包まれたアイスクリーム、つまり「雪見だいふく」みたいなアイス。チョコ、マンゴ、ココナツなどのフレーバーがあって、スーパーで普通に売られていたし、街なかに専門店もあったほど。
レストランでは、たびたび「Hijiki(ひじき)」にも遭遇した。肉魚卵などを排したヴィーガンメキシコ料理店では、セビーチェ(本来は魚介のマリネサラダ)に用いられていて、「魚の代わりにシーフードっぽい味が出せるから」とシェフ。なるほどね。以来、我が家のサラダにも、ひじきが加わった。
前置きが長くなったけれど、すこし前に京都で、思いがけない庭園に出合った。北区西賀茂の[正伝寺]にある、枯山水の庭である。きっかけは、ミュージシャンの故デヴィッド・ボウイだった。彼が生前に愛し、コマーシャル撮影も行った庭だと、人づてに聞いたのだ。へえ、知らなかった。さっそく興味津々で向かった。
[正伝寺]は、[金閣寺]よりさらに数キロ北、のどかな住宅街にある。こんもりした緑を背負うように建つ山門をくぐり抜けると、ゆるやかな登り坂の参道が続く。心なしか空気がひんやり、しっとり。さっそく癒やされる。
庭園にたどり着くと、先客は数組ほど。すぐに貸し切り状態になった。縁側に一人腰かけて、庭をぼうっと無心に眺める。敷き詰められた白砂に、整然と刈り込まれたサツキ。遠く前方には、比叡山のきりっとした姿。耳に聞こえてくるのは、鳥のさえずりと風の音だけだ。こんなにも下界のノイズが遮断される場所って、なかなかない。
そのとき、ふわっと春風が吹いた。白壁の外に植えられている満開の桜の花が、いっせいに舞い散る。ちらちらと、まさに花吹雪。あまりにもドラマチックな美しさに、息をのんだ。風がやんで、庭が静けさを取り戻すと、私の心にも平穏が訪れた。内に抱えていた、いがいが、もやもやが、すっかり掃き清められてしまった。
予想外のカタルシスと、帰り道の多幸感。すばらしい発見だった。デヴィッド・ボウイよ、どうもありがとう。それにしてもあなたは、どうやってこの名園を見つけたのですか?
※最新話(vol.8)は、SAVVY8月号(6/23発売予定)に掲載予定!
Niehei Aya
エッセイスト。夫の仕事の移転を機に東京からN.Y.へと移住し、N.Y.にまつわる著書を数々出版。9年の滞在を経て、2021年にあこがれの京都へ。近著に『ニューヨークおいしいものだけ』(筑摩書房)、『ニューヨ ークでしたい100のこと』(自由国民社)
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