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変な、平安蚤の市。

 京都とニューヨークは、どちらも古いものと親しい街。築100年越えの建物がそこかしこに残っているし、骨董やビンテージが生活に難なく、するりと溶け込んでいるからだ。
 友人知人のニューヨーカーは、古いもの使いの名人だった。1960年代のアルミ製道具箱をサイドテーブル代わりにしたり、ビンテージの木製ボードゲームをアートとして壁に飾ったり、宝箱みたいな年代物のトランクを猫用トイレに改造したり。へえ、なるほどねえ、とよく感心させられた。おかげで私も古いものラバーになった。
 ニューヨークで古いものを探す場所といえば、週末のフリーマーケット。京都にもそんな場所があればいいのに、と思っていたら、あった。毎月ほぼ10日に[岡崎公園]で開催される、『平安蚤の市』だ。京都近県ほか各地からの出店者が、骨董の器、ヨーロッパのアンティーク、昭和のバブル香が漂う雑貨などを、それぞれブースで我流に並べて販売する。

快晴の『平安蚤の市』。

ある月の『平安蚤の市』で、ひと味ちがう陳列のブースに引き寄せられた。白い布や板の上に、壺や皿や陶片、謎の網や棒などが、アートピースのように並べられている。どれも、いわくありげ。その一つに、幅20センチ、長さ50センチほどの、細かな透かし模様が入った鉄板があった。模様をすり抜けた夏の日差しが、地面に均一なパターンを生み出し、美しかった。
「これは、なんですかね?」
 店主に聞けば、もともとは刃物の型で、パーツを抜いたあとのものだという。
「まあ、言ったら、産業廃棄物みたいなもんですね。はっはは」
 どこかの大先生みたいな、貫禄ある店主が快活に笑う。値段は3000円。じゃあ、ください。と、廃棄物を買う私。そしていま自宅には、その廃棄物が尊いオブジェとして飾られている。

 別の月には、陶器の工房で使われていた細長い木の板を購入した。洋書を並べるのによさそう。前のめりで購入し、梱包してもらった木の板を抱え、ほくほく顔でバス停に立っていた。
「いいお買い物ができました? それは、鏡?」
 ふいに横から、初老のご婦人が話しかけてくる。
「いえ、木の板なんですけどね。清水焼の工房で使われていたらしくって。ちょうど低い脚も付いていて、ディスプレイ棚にいいかなと思って。これで1500円だったんです!」
 うわずった声でしゃべり続ける私、ご婦人はどこか遠くの空を見つめている。バスが来て、会話が終わった。「それじゃ」。ご婦人は逃げるように、足早にバスに乗り込んでいった。
 変な(いい意味で)古いものであふれる『平安蚤の市』。同じくいい意味で変な店主と、変な自分にも思いがけず出会えてしまう。そんな場所である。

木の板(写真5)を購入した[oud.]のブース。この日はデッドストックの食器がずらり。

木の板には、洋書やオブジェを飾って。
  • いつも欠かさず散財する[タユタフ]のブース。
  • パン型はティッシュ入れに。
  • スチール製の蓋付きボックスは、乾物入れにぴったり。
著者

Nihei Aya

エッセイスト。夫の仕事の移転を機に東京からN.Y.へと移住し、N.Y.にまつわる著書を数々出版。9年の滞在を経て、2021年にあこがれの京都へ。近著に『ニューヨークおいしいものだけ』(筑摩書房)、『ニューヨ ークでしたい100のこと』(自由国民社)

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