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才能を輩出する大阪芸大
今年も届いた、ええ仕事

文/春岡勇二

 『シン・ゴジラ』『シン・仮面ライダー』の庵野秀明、『舟を編む』の石井裕也、『海炭市叙景』の熊切和嘉、『そこのみにて光輝く』の呉 美保、そして『ハッシュ!』『ぐるりのこと。』の橋口亮輔、彼らはみな大阪芸術大学出身(中退、除籍を含む)の映画監督たちだ。 

 今月紹介する2作品の監督もそう。『オレンジ・ランプ』の三原光尋監督のこれまでの作品には、藤 竜也と原田知世が父娘役を演じた『村の写真集』(2003)、藤 竜也が今度は中谷美紀と父娘以上の絆を育む、料理の師匠と弟子を演じた『しあわせのかおり』(2008)などがある。

 『オレンジ・ランプ』の主演は、貫地谷しほりと和田正人。二人が演じているのは、39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断された夫とその妻。家族が、あるいは本人が認知症と診断されたらどうしたらいいのか。それをさほど肩肘張ることなく、温かく柔らかいタッチで描いてみせる。主演の二人が息の合った芝居を見せる脇で、中尾ミエ、赤井英和、山田雅人らが、役柄をよくつかんだ演技で盛り立てる。三原監督の、出演者たちの良いところを引き出す率直で真面目な姿勢が見てとれる。物語の基になっているのが、実際に39歳で認知症と診断されながら、10年経った今も会社勤めを続け、一方で相談窓口の活動や、自らの経験を語る講演なども行っている丹野智文という人の実話。「認知症になったら人生終わり」なんてことは決してない、ということを微笑のなかに教えてくれる。

 もう1本は『1秒先の彼』。監督は山下敦弘。高校の文化祭に出演するガールズ・バンドの数日を軽快なタッチで描いた『リンダ リンダ リンダ』(2005)や、くらもちふさこの名作コミックを岡田将生、夏帆の主演で映画化した『天然コケッコー』(2007)、川本三郎の原作を松山ケンイチ主演で映画化した『マイ・バック・ページ』(2011)などの代表作がある。

 『1秒先の彼』というタイトルを聞いて「あれっ」と思った人もいたと思う。そうこの映画は、2020年の台湾映画、チャン・ユーシュン監督の『1秒先の彼女』の日本版リメイクなのだ。何事にも1秒早く反応してしまう主人公が恋をして、デートの約束を取り付けるが、当日目覚めたらなぜか翌日になっていて、デートの日が失われていることに気付く。その謎を解くには、彼の勤める郵便局に毎日やって来る、何事にも1秒遅い少女の協力が必要らしい。という物語の設定や仕掛けはオリジナルに近いものを残して、変えたのは主人公の性別と、舞台を京都にしたこと。京都の独特の雰囲気が、時間を題材にしたファンタジックな物語に不思議なリアリティを与えているのが面白い。脚本を書いたのはご存じあの宮藤官九郎。主演は岡田将生に清原果耶。その脇を荒川良々、羽野晶紀、加藤雅也といった個性的なメンバーに加え、今年3月に亡くなった笑福亭笑瓶までもが固める。ほっこりと楽しい山下・宮藤の京都時間幻想映画。

『オレンジ・ランプ』 6月30日(金)公開
大阪ステーションシティシネマ、MOVIX京都、kino cinéma 神戸国際 ほか
監督/三原光尋 出演/貫地谷しほり、和田正人、伊嵜充則、新井康弘 ほか

©2022「オレンジ・ランプ」製作委員会

『1秒先の彼』7月7日(金)公開
TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズ二条、TOHOシネマズ西宮OS ほか
監督/山下敦弘 出演/岡田将生、清原果耶、荒川良々、福室莉音、片山友希 ほか

©2023『一秒先の彼』製作委員会

※この記事は2023年5月号からの転載です。記事に掲載されている情報は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認下さい。

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